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宙域のブツェンベルヒト  作者: 丸介
第一章

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2/10

1-2★模擬戦

 * 60日 *


 【ピーッ】


 地球防衛軍統合戦略AI(カーツェナルプ)が、定刻を告げた。

 エリス防衛基地の司令官・レーヴェンハルト大佐は、スクリーンの戦略図を見ながら腕組みをしていた。


 「それでは諸君、今日も演習といこうじゃないか!」


 レーヴェンハルト大佐の言葉が、合図となった。


 【カーツェナルプ:記録開始】


 狭いコックピットの中、ソラは操縦桿を押し込んだ。

 RVK-01のエンジンノズルから、青白い光が漏れる。

 ほんの数秒で、最高速度0.05cに達した。強烈なGに、強靭であるはずの身体が軋む。


 【オリヴィア:各機、散開!】


 三機編成の先頭。オリヴィアが号令を下した。


 「了解!」

 【リエン:了解!】


 右翼のソラ。左翼のリエンが応答し、機体の進路を変更した。

 相手はドイツ軍。率いているのはアウレリア。


 真紅の機体が、僚機を振り切って一直線に向かってくる。


 【オリヴィア:ソラ! アウレリアの狙いは君だ! 持たせろ!】


 「了解!」


 ソラはエンジン出力を絞り、旋回運動を開始した。

 アウレリアを引き離すためだ。


 【オリヴィア:リエンは私と共に、残りを素早く制圧。遅れるな!】


 【リエン:了解!】


 ソラとは逆に、オリヴィアとリエンはエンジンを最大出力で稼働させたまま、アウレリアの後続との距離を縮める。

 すれ違う二機を、真紅の機体は無視した。


 【アウレリア:さあ、死をも恐れぬその実力、見せてみなさい! ソラ!】


 カーツェナルプの戦闘支援範囲外から、アウレリアは攻撃を仕掛けた。

 RVK-01の両翼の収束光子(レーザー)砲門が、三度光った。


 【ソラ機・回避】

 【ソラ機・回避】

 【ソラ機・被弾-1】

 【ソラ機・被弾-1】

 【ソラ機・被弾-1】

 【ソラ機・回避】


 最高速度は0.05cに達する機体だ。

 その最中これほど離れた距離で、アウレリアは正確に撃ち抜いた。


 「この距離で当てるか」


 0.05cに達する機体同士の戦闘では、コンマ数ミリ秒の判断ミスが死を分ける。アウレリアの偏差射撃は、AIの予測線すら嘲笑う正確さだった。

 演習なので、あくまでデータ上の模擬ダメージ。ソラの網膜内の機影に、被弾箇所がマークされた。


 「だが……君が飾りだけのエースでないことは、承知している!」


 主戦場からアウレリアを引き離すために、ソラはエンジン出力を上げた。

 ソラを追うように宇宙空間に赤い機体を滑らせ、アウレリアが距離を詰めてきた。


 【アウレリア:敢えて釣られてやろうじゃない! さあ、一騎打ちよ!】


 赤いRVK-01の砲門が、再び光る。

 ソラの機体は、それを予測していたかのように躱した。


 だが、その先には、事前にアウレリアが撒いた無数の光子爆弾が浮かんでいた。


 「いつの間に!」


 【アウレリア:AI(カーツェナルプ)に頼りすぎよ!】


 ソラの機体が、逃げ場なくロックオンされる。

 勝利を確信したアウレリアが引き金を引くその前に、ソラは光子爆弾の中に躊躇なく機体を進めた。


 【アウレリア:はあっ?】


 「RVK-01(マルヒト)、持ちこたえてくれ」


 【ソラ機・被弾-2】

 【ソラ機・被弾-1】


 光子爆弾の爆発判定。ソラの網膜に、機体損傷のログが蓄積される。


 【アウレリア:逃がすか!】


 アウレリアはソラの後を追う。


 ──ここだ!


 ソラは操縦桿を操作した。

 可変戦闘機RVK-01が、《変形》した。

 四基あるエンジンのうち、二基が胴体から分離した。それはさながら人の足のように、機体前面に足の裏──エンジンを向けた。


 「ぐ、ぬぅっ!」


 二基のエンジンが逆噴射し、ソラの身体をシートへ叩きつけた。

 急制動に、息が詰まった。網膜表示が赤く染まる。


 【ソラ機・機体損耗-1】


 機体の分離機構が、悲鳴のような振動を走らせた。

 戦闘機の翼が折りたたまれた。胴体から収束光子砲門が分離し、腕のように自由に射線を取れるようになる。

 急速に狭まる視界の中、ソラは照準を合わせた。

 狙いは、アウレリアが撒いた光子爆弾。


 ソラが引き金を引くと同時に、機体に衝撃が走った。


 【ソラ機・被弾-5。撃墜判定】

 【アウレリア機・被弾-1】


 誘爆した光子爆弾の閃光(エフェクト)の中から、真紅の機体が出てきた。


 【アウレリア:私のRVK-01(ペルヒタ)に当てるなんて……。でも、また私の勝ちね!】


 【オリヴィア:これは個人戦ではないわ】


 オリヴィア機の機首光子弾頭が一発、真紅の機体のコックピットを正確に捉えた。


 【アウレリア機・被弾-10。撃墜判定】

 【カーツェナルプ:模擬戦終了。日本・勝ち点3】


 【AH-UK404《オリヴィア》・戦闘評価:A】

 【AH-JP502《ソラ》・戦闘評価:B-】

 【AH-JP618《リエン》・戦闘評価:B-】

 【AH-DE503《アウレリア》・戦闘評価:A-】

 【AH-DE511《レオン》・戦闘評価:C+】

 【AH-DE519《クラウス》・戦闘評価:B】


 【アウレリア:はあっ? ちょっと、レオン! クラウス!】


 【レオン:無茶を言わないでくれよ、お姫様(プリンツェッシン)】

 【クラウス:全くだ。これでも善戦した方だぞ】


 * * *


 【カーツェナルプ:演習第二戦目を開始】


 日本とドイツの一戦に続いて、ドイツとポーランドの演習が始まった。

 光速の5%に達するドッグファイト。とてもではないが、目では追えない。スクリーンに映し出されているのは、速度を落とした映像だ。

 その様子を、レーヴェンハルト大佐はじっと見ていた。


 「我が国側のエースは、少し独断専行が過ぎるな」


 規律を重んじるドイツ式の教練を受けたのに、こうも我が出てしまうか。

 レーヴェンハルト大佐は内心、頭を抱えていた。


 「大佐、こちらでしたか」


 「久しいな、二等宙佐」


 レーヴェンハルト大佐の言葉に、西埜豪二等宙佐は軽く頭を下げた。


 「どうですか、RVK-01は。忌憚ない意見を、是非とも頂ければと思いまして」


 歩み寄った西埜はスクリーンを見上げて、レーヴェンハルト大佐の言葉を待った。

 腕組みを解いたレーヴェンハルト大佐は、顎に手を当て思案する。


 「ふぅむ……。

  エンジン。光子兵装。共に申し分のない性能だ。だからこそ……機体の重さが目立つな」


 「重さ、でありますか?」


 現行機のFK-14より巨大化しているが、無重力環境なら問題ないはずだと西埜は思っていた。


 「無論、重量の事ではない。変形時の挙動に関してだ。遊びがない、とでも言えばいいか……。とにかく、重い。

  現に、専用設計された『奴ら』でも、機体を持て余している」


 奴ら。

 操縦士たちをそう表現した事に、西埜は若干の苛立ちを覚えた。

 押し黙る西埜を意に介さず、レーヴェンハルト大佐は言葉を続けた。


 「まあ何にせよ、ようやく形にはなった。本命はRVK-02だと聞いているが?」


 「まだ草案段階ですよ」


 西埜は、スクリーンに映し出された演習を見た。両軍のRVK-01が変形を繰り返しているが、指摘された通り、変形後の姿勢制御が遅れている。


 「なるほど。重い、ですか」


 【カーツェナルプ:模擬戦終了。ドイツ・勝ち点3】


 「改善できるかね?」


 「この後、ゴンゴン工廠へ行くので、そこで技師と相談してみます」


 西埜は手帳に記しながら、そう告げた。

 手帳には、RVK-02への改良案がびっしりと書き込まれていた。


 * * *


登場人物

ソラ(AH-JP502)・訓練兵

リエン(AH-JP618)・訓練兵

オリヴィア(AH-UK404)・訓練兵


アウレリア(AH-DE503)・訓練兵

レオン(AH-DE511)・訓練兵

クラウス(AH-DE519)・訓練兵


西埜豪・二等宙佐

レーヴェンハルト・大佐

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