1-2★模擬戦
* 60日 *
【ピーッ】
地球防衛軍統合戦略AIが、定刻を告げた。
エリス防衛基地の司令官・レーヴェンハルト大佐は、スクリーンの戦略図を見ながら腕組みをしていた。
「それでは諸君、今日も演習といこうじゃないか!」
レーヴェンハルト大佐の言葉が、合図となった。
【カーツェナルプ:記録開始】
狭いコックピットの中、ソラは操縦桿を押し込んだ。
RVK-01のエンジンノズルから、青白い光が漏れる。
ほんの数秒で、最高速度0.05cに達した。強烈なGに、強靭であるはずの身体が軋む。
【オリヴィア:各機、散開!】
三機編成の先頭。オリヴィアが号令を下した。
「了解!」
【リエン:了解!】
右翼のソラ。左翼のリエンが応答し、機体の進路を変更した。
相手はドイツ軍。率いているのはアウレリア。
真紅の機体が、僚機を振り切って一直線に向かってくる。
【オリヴィア:ソラ! アウレリアの狙いは君だ! 持たせろ!】
「了解!」
ソラはエンジン出力を絞り、旋回運動を開始した。
アウレリアを引き離すためだ。
【オリヴィア:リエンは私と共に、残りを素早く制圧。遅れるな!】
【リエン:了解!】
ソラとは逆に、オリヴィアとリエンはエンジンを最大出力で稼働させたまま、アウレリアの後続との距離を縮める。
すれ違う二機を、真紅の機体は無視した。
【アウレリア:さあ、死をも恐れぬその実力、見せてみなさい! ソラ!】
カーツェナルプの戦闘支援範囲外から、アウレリアは攻撃を仕掛けた。
RVK-01の両翼の収束光子砲門が、三度光った。
【ソラ機・回避】
【ソラ機・回避】
【ソラ機・被弾-1】
【ソラ機・被弾-1】
【ソラ機・被弾-1】
【ソラ機・回避】
最高速度は0.05cに達する機体だ。
その最中これほど離れた距離で、アウレリアは正確に撃ち抜いた。
「この距離で当てるか」
0.05cに達する機体同士の戦闘では、コンマ数ミリ秒の判断ミスが死を分ける。アウレリアの偏差射撃は、AIの予測線すら嘲笑う正確さだった。
演習なので、あくまでデータ上の模擬ダメージ。ソラの網膜内の機影に、被弾箇所がマークされた。
「だが……君が飾りだけのエースでないことは、承知している!」
主戦場からアウレリアを引き離すために、ソラはエンジン出力を上げた。
ソラを追うように宇宙空間に赤い機体を滑らせ、アウレリアが距離を詰めてきた。
【アウレリア:敢えて釣られてやろうじゃない! さあ、一騎打ちよ!】
赤いRVK-01の砲門が、再び光る。
ソラの機体は、それを予測していたかのように躱した。
だが、その先には、事前にアウレリアが撒いた無数の光子爆弾が浮かんでいた。
「いつの間に!」
【アウレリア:AIに頼りすぎよ!】
ソラの機体が、逃げ場なくロックオンされる。
勝利を確信したアウレリアが引き金を引くその前に、ソラは光子爆弾の中に躊躇なく機体を進めた。
【アウレリア:はあっ?】
「RVK-01、持ちこたえてくれ」
【ソラ機・被弾-2】
【ソラ機・被弾-1】
光子爆弾の爆発判定。ソラの網膜に、機体損傷のログが蓄積される。
【アウレリア:逃がすか!】
アウレリアはソラの後を追う。
──ここだ!
ソラは操縦桿を操作した。
可変戦闘機RVK-01が、《変形》した。
四基あるエンジンのうち、二基が胴体から分離した。それはさながら人の足のように、機体前面に足の裏──エンジンを向けた。
「ぐ、ぬぅっ!」
二基のエンジンが逆噴射し、ソラの身体をシートへ叩きつけた。
急制動に、息が詰まった。網膜表示が赤く染まる。
【ソラ機・機体損耗-1】
機体の分離機構が、悲鳴のような振動を走らせた。
戦闘機の翼が折りたたまれた。胴体から収束光子砲門が分離し、腕のように自由に射線を取れるようになる。
急速に狭まる視界の中、ソラは照準を合わせた。
狙いは、アウレリアが撒いた光子爆弾。
ソラが引き金を引くと同時に、機体に衝撃が走った。
【ソラ機・被弾-5。撃墜判定】
【アウレリア機・被弾-1】
誘爆した光子爆弾の閃光の中から、真紅の機体が出てきた。
【アウレリア:私のRVK-01に当てるなんて……。でも、また私の勝ちね!】
【オリヴィア:これは個人戦ではないわ】
オリヴィア機の機首光子弾頭が一発、真紅の機体のコックピットを正確に捉えた。
【アウレリア機・被弾-10。撃墜判定】
【カーツェナルプ:模擬戦終了。日本・勝ち点3】
【AH-UK404《オリヴィア》・戦闘評価:A】
【AH-JP502《ソラ》・戦闘評価:B-】
【AH-JP618《リエン》・戦闘評価:B-】
【AH-DE503《アウレリア》・戦闘評価:A-】
【AH-DE511《レオン》・戦闘評価:C+】
【AH-DE519《クラウス》・戦闘評価:B】
【アウレリア:はあっ? ちょっと、レオン! クラウス!】
【レオン:無茶を言わないでくれよ、お姫様】
【クラウス:全くだ。これでも善戦した方だぞ】
* * *
【カーツェナルプ:演習第二戦目を開始】
日本とドイツの一戦に続いて、ドイツとポーランドの演習が始まった。
光速の5%に達するドッグファイト。とてもではないが、目では追えない。スクリーンに映し出されているのは、速度を落とした映像だ。
その様子を、レーヴェンハルト大佐はじっと見ていた。
「我が国側のエースは、少し独断専行が過ぎるな」
規律を重んじるドイツ式の教練を受けたのに、こうも我が出てしまうか。
レーヴェンハルト大佐は内心、頭を抱えていた。
「大佐、こちらでしたか」
「久しいな、二等宙佐」
レーヴェンハルト大佐の言葉に、西埜豪二等宙佐は軽く頭を下げた。
「どうですか、RVK-01は。忌憚ない意見を、是非とも頂ければと思いまして」
歩み寄った西埜はスクリーンを見上げて、レーヴェンハルト大佐の言葉を待った。
腕組みを解いたレーヴェンハルト大佐は、顎に手を当て思案する。
「ふぅむ……。
エンジン。光子兵装。共に申し分のない性能だ。だからこそ……機体の重さが目立つな」
「重さ、でありますか?」
現行機のFK-14より巨大化しているが、無重力環境なら問題ないはずだと西埜は思っていた。
「無論、重量の事ではない。変形時の挙動に関してだ。遊びがない、とでも言えばいいか……。とにかく、重い。
現に、専用設計された『奴ら』でも、機体を持て余している」
奴ら。
操縦士たちをそう表現した事に、西埜は若干の苛立ちを覚えた。
押し黙る西埜を意に介さず、レーヴェンハルト大佐は言葉を続けた。
「まあ何にせよ、ようやく形にはなった。本命はRVK-02だと聞いているが?」
「まだ草案段階ですよ」
西埜は、スクリーンに映し出された演習を見た。両軍のRVK-01が変形を繰り返しているが、指摘された通り、変形後の姿勢制御が遅れている。
「なるほど。重い、ですか」
【カーツェナルプ:模擬戦終了。ドイツ・勝ち点3】
「改善できるかね?」
「この後、ゴンゴン工廠へ行くので、そこで技師と相談してみます」
西埜は手帳に記しながら、そう告げた。
手帳には、RVK-02への改良案がびっしりと書き込まれていた。
* * *
登場人物
ソラ(AH-JP502)・訓練兵
リエン(AH-JP618)・訓練兵
オリヴィア(AH-UK404)・訓練兵
アウレリア(AH-DE503)・訓練兵
レオン(AH-DE511)・訓練兵
クラウス(AH-DE519)・訓練兵
西埜豪・二等宙佐
レーヴェンハルト・大佐




