5、森の使徒 リリー
ドラスに誘導されながら、森から抜ける道をいく。
ドラスは持ってる黒い槍を器用に使いながら、枝葉を払ってくれている。
「森を出たら、外の奴らもお嬢に気づくだろう」
「お嬢って」
「リリー、お前だよ。俺はお嬢の使い魔だの、テイムされた獣だのに近い扱いだ。要は従者。なら呼び名はお嬢様っって方が収まりがいいんだろ?」
「まぁ、うん。くるしゅうない」
元日本人としては、貴族文化は性に合わないとこ多いけど、まぁ。そう呼ばれて悪い気はしない。
「なら、ドラスはあたしの執事、だね」
「あぁ。今はそれでいい。我らの愛し子」
「その……あに、る?ってなに」
「古い呼び名だよ。俺らの主人へへ捧げる愛称なのさ」
「なら、あたしはこれからリリー=アニルかな」
「それがいい。貴族の名前は色々と目立つだろうからな」
私の記憶にはない道を辿って、森から出る。知らない道だ。この森が、禁足地指定を受ける前からあった、反対側へ抜ける道なのだろう。
鬱蒼と視界を遮る森を抜けた先には、広野があった。森には吹き込んでこない、清々しい風が吹く。
「ここの商道を進めば、街に出る」
「おぼえてる。ドルキ、だっけ」
ドラスが示すのは地平線の先。地球だと地平線まで数キロだというから、そのぐらいは歩けってことか。
ドラスは、たしか……冒険と商いの街、だとか。こっちの世界に来てから、パパの部屋で地図を眺めた記憶は、まだ微かに残っている。
「誰かが来る前に教えておくよ、お嬢」
「うん?」
「まず、その体、どこまで壊せばぶっ壊れるかわからなかった。お嬢が死ぬのは自由だが、中身が溢れれば周りは死ぬし、そこは向こう千年、あの地獄になる。自分のガワに期待するな」
「わかった」
いつ爆発するかわからないってことか。漫画みたいな調子の乗り方はできないってことだろう。
「それよりやばいのは呪いの方だ。気づいたらお嬢自身で止められるだろうが、生き物の許容量は思ったより少ないぞ。漏らすな」
貴族として生きてた時には、魔法を修めた人が多かったし、自分の魔力は体臭みたいなもので、外に漏らさないのがマナーだった。
喧嘩売られでもしない限りは、大丈夫だと思いたいけど、なるべく気をつけよう。
「ん、きをつける。」
「うん。僕としてもそうしてくれると嬉しい。」
「……誰?」
一面に広がる小麦畑、その真ん中に伸びる轍の刻まれた一本道。
その光景に、コピペしたみたいに一瞬で、二人の人影が現れた。白衣を纏った甲冑姿をした声の主と、その後ろに半分身を隠した白ローブの少女。
なんか、全体的に白いな。大学病院か?
「アークマン。転送が近すぎます!」
「大丈夫。僕簡単には死なないつもりだから」
「私は普通に死にますからね!?」
毒気の抜かれるコントのような二人だ。
「だれ?」
「おっと、失礼したね。ダルヴ君の紹介の通り、僕はパイル。パイル=アークマン。隠居希望中の魔法使いだよ」
「アークマン!何度も言いますけど、今の私はダルヴではなく、母方のプリムラ性でお呼びくださいと何度もお伝えしています!」
「あーそうだね、そうだった。この子はグノーシア・プリムラ。今までウチの補佐官をやってもらってた、若くて優秀な魔法使いさ」
アークマンと名乗った男が、ポンポンと白いフードを叩く。
白衣で甲冑姿の魔法使い……キャラの渋滞が激しいけど、その言葉には、重さもないが敵意もない。
「なにしに来たの?」
「王室魔術院が、ここで大きな魔力波を検知してね。震源を見に来たんだよ。さて、プリムラ君、ダルヴ家のものとして、どちらがあの警報の原因かわかるかい?」
「あの黒槍のヒトです。青い髪の。どっちも魔力を引っ込めてますけど、あの森を抜けてくるのに、護衛役だろう彼が、槍一本で十分なはずがない」
グノーシアと呼ばれた、銀髪の子が、迷わずドラスを指差す。
思わず、横のドラスと目を合わせる。
「まだまだ青いね、プリムラ君。そうだね?黒髪のキミ」
「リリーよ、リリー=アニルよ、よこのかのじょはドラスロール。じゅうしゃなの。あたしの」
「アニル君……あまり聞かない名だ。それで、君が震源地ってことで、あってるだろ?」
魔力を体重に例えるなら、魔力波というのは多分足音みたいなものだろう。もちろん、体重が重いほど足音も大きくなる。そして、私とドラスロールの魔力、どちらがより重いか……どれだけ私に詰め込まれているのか、私自身でそこがわからないけど……まぁ、私だろう。
こくん、と頷く。……いちいち子供っぽい動きしかできないのは歯痒いが、この体に引っ張られて、どうにも年相応の動きになってしまう。
なんでも、修復する前に、身体の多くを失ったからなんじゃないかと、ドラスは言っていた。たぶん死ぬ前にゲボゲボ吐いていた熱いあれが、内臓だか血液だったりしたのだろう。
「そう、君に用事があってきたのさ」
トスン。
軽い音。私の肋骨に鍔が当たる音。アークマンの持つナイフが、私の心臓がある、胸の中心を穿った音。
心臓と同時に気管も傷づいたのだろう。呼吸の動きに合わせて、口から血が流れ……ない。
「師匠、なにを!?」
「おや、すまない。想定外だ。当事者のアニル君だけじゃなくて、ドラスロール君にまでリアクションしてもらえないとは思わなかった。」




