4、ドラスのハードキャンプ
「憤怒の森」も朝は静かで、木々の葉は朝露に濡れ、それを穏やかな陽光が煌びやかに輝かせている。
泉を前に、二人が踏み締めたことでできた、ひらけた一角。
そこで、半ば朽ちたナイトドレスが、私の蹴りの動きに風切り音を立てる。ドラスの顎を穿とうとしたソレは、余裕の笑みのドラスの青い前髪を揺らす。
「いい蹴りだが、ぬりぃな。防御の意識が弱ぇ」
しまっ
隙のできた鳩尾に、ドラスの蹴りが突き刺さる。
幼児体型で軽いとはいえ、人間?一人の体が数メートルとばされる。前々世の日本なら確定で児童虐待だぞコラ。
「まだ、痛みの神経が生えそろってないだろ。反射的な防壁が貼れてねぇ」
魔力の籠った蹴りは、効率的に破壊力に変換さ、粘土細工みたいに再現された私の内臓をシェイクする。
私が二度目の死を迎えてから数年。意識を取り戻してから数日。私は一方的にドラスロールにタコ殴りにされていた。雑に復活した私を、ドラスが破壊して、私がもう一度意識的に修復する。
ドラスが言うには魂の輪郭。私がこうだった、と強固にイメージし通りに体を修復すれば、少しづづ体が精巧に復元されていく。
例えるなら、イラストレーターがラフを何度も重ねることで、完成度を上げていくような感じ。最初は何となくでしかできなかったけど、ここ数日、ずっと繰り返していたから流石に慣れてきたものだ。
赤黒いチカラを、ぐずぐずになった腹部で凝縮。その流れ込む勢いで、イメージ通りにパーツを形成!魔力を普段と同じ感じで流すことで、反応を確認!
よし。これでお腹の調子が良くなった。
「これで、どう、かなっ?」
「うん。あーいい、いい感じだ。時間はかかったが、これで違和感のねぇ反射ができんだろ」
「ありがと。そうだといいけど」
寝転がったままお腹を直した私を覗き込んで、手のひらでパシパシ、お腹を叩くドラフ。自称執事ということもあり、当世風の執事っぽく、シャツにベストとサスペンダー……汗ひとつ流さず、平然と着こなしている。
鹿が化けた姿だって言ってたけど、この森でどうして、私みたいに死なずに済んでいるんだろう。
「聞きわすれてたけど、どうして、ドラスはしんでないの?」
「あーー、あれだ。俺は、あれだよ、この森が憤怒の呪いで焼け落ちてからここで生まれた、精霊みたいなもんだからだよ」
動いて少し乱れた青髪を、後ろで一つ結びになおすドラス。
精霊。魔法使いとかが連れているのを見たことがある。大きな魔力溜まりが個性をもったもの。死後の動物霊とかに魔力を突っ込んだ人工物じゃない、天然モノは……実際に見たのが初めてだと思う。
いくつか疑問はある気がするけど、理屈はわかった。今の私と同じで、この呪いに満ちた魔力が原動力になっから、この森で狂死することはないんだろう。
「さて、そろそろ、いいだろ」
「いいの?」
なぜ、私は黙々と致命傷を浴び続けていたのか。もちろんこれが目的だ。
「あぁ。そろそろ森を出よう。引きこもりのお嬢様も社会に出ていい頃だ」
「べつに、ひきこもりたかったわけじゃないけど」
ブートキャンプ(死語かな?)も顔負けの、スパルタ教育を受けてたわけで、ニートの定義的にも当たらないはず。
とはいえ、いい加減ここを出よう。流石に健康で文化的な最低限度の生活を送りたい。




