↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄泉がえりの魔物系令嬢、三度目の正直ライフ  作者: のるす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/14

3、青き鹿 ドラスロール

8年前、一人の少女が死んだ「憤怒の森」に今、一匹の魔獣が駆け回っていた。


 白く伸びたその脚は、病的で陶器そのもののような白さを湛えたまま、素足で大地を駆け抜ける。

 黒く燃える森の魔力がそのまま、濃縮されたような黒髪は、飛び跳ねる彼女の動きに付き従って艶やかに広がる。そこに元のリリーの金髪の片鱗は、もうない。

 エメラルドのようだった美しい碧眼は赤く染まり、人の知性が剥がれ落ちた先の、魔獣としての野生の感情のままに踊っている。


 口に咥えた野うさぎの頸椎を、ゆっくりと噛み砕き、その口腔いっぱいに暖かい血液の飛沫を受ける。

 朽ちたドレスの残骸を纏った魔獣は、幸せのままに喉を鳴らし、血潮を飲み干す。


「まるで獣……という資格は俺にはないが、このままではただの魔獣だな」


 声が聞こえるまで、気配がかけらもなかった。人のカタチをした魔獣は後ろを振り返る。そこには、青い紙をした人のようなものがいた。

 魔獣の一(・)度(・)は(・)朽(・)ち(・)た(・)脳(・)でも、その形がヒトのものだと知っていたが、魔獣の直感はそれがヒトではないと感じていた。


 首がごっそりと食いちぎられた野うさぎが、魔獣の口もとから落ちる。

 魔獣は本能に従って、その四肢で地面を掴み、殺意を目の前の青髪の女に叩きつける。


「その殺意悪かないけど、知恵のない獣の牙じゃ俺には届かないかな」


 爆発のような勢い、暴力の嵐で女を襲う。

 

 それから、目が覚めて6年。初めての経験が魔獣を襲った。

 大樹を裂く爪が、大地を割る脚がこの青髪には当たらない。かわりに魔獣が叩きつけられ、吹き飛ばされる。


「そうだ悩め、少しは頭をつかえ」


 「憤怒の森」に満ち満ちた呪いをその身に詰め込んだ魔獣は、内側にこびりついた、リリーの魂を侵食。戦闘に使うために、その形をみるみる復元させていく。

 力任せに振るう腕は、魔力の鉤爪を纏い、直線的に動いていた脚は、黒い魔力の力場を跳ね、単調な動きから、より細かい軌道修正を可能にしていた。


「そう、そうだ、この森の愛し子、アン・イル。お前はそうだったのだろう。お前の形状(かたち)を思い出していけ」

「ウウウーーーッ!!!」


 暴力が交差すること数度。

 魔獣は、脳の復元され出した機能によって、戦闘思考をまわしつつ、疑問を挟む余裕が出始めていた。

 (ドウシテ)(ナンデ)(コイツ…ハ……)


「オマッ…オマエは、なにっ!?」

「俺はドラスロール。愛し子(アン・イル)を助ける青の四つ鹿。ドラスロールだ。」

「てき?」


 どこかから取り出した黒槍で、あたしの爪を防ぎながら涼しい顔でドラ……えっと、なんだっけ。ドラス?は答えた。


「いいや。仲間だよ。言っての通りお助け道具だ。お嬢ちゃんの前世のように言うなら、執事みたいなもんだと思えばいい」

「ドラス、なかま」

「そう、そうだ。ドラスでいい。俺、仲間。お前、自分の名前は?」


 あたし、あたしは……

 今まで8年間、一度も使用していなかった記憶領域に、閃光が走る。


「あたし、あたしの名前はリリー……」

「記憶はどうだ?」

「おもいだした……あたし、殺されて。おとーさまも!あの、まとぅ・こるひかむに!」


 そう、そうだ。17の夜に。ちょっと初めての結婚に期待なんかしていた、あの婚儀の日の夜に。

 割と緊張と興奮に胸を膨らませたりなんかして……

 胸?胸……あれ、


「むね、へってる?」

「ハハッ、胸だけじゃない。お前、一回り小さくなってんだぜ気づいたか?」


 本当だ。

 よく見たら腕も足も一回り小さくなっている。

 泉に走り寄って水面を覗くと、そこに反射する顔も……幼い。そして、相変わらず美形だ。むかしの日本の記憶はだいぶ朧げだけど、この私、東洋人の血では不可能なんじゃないかってレベルで顔がいい。アイドル顔負けだ。ありがとうパパ、ママ。


 そういえば、泉がとても綺麗だ。なんでか赤く光ってるけど、「憤怒の森」の黒焔のような焼け付く呪いの禍々しさがない。


 「落ち着いてきたみたいだな、リリー。森は綺麗に見えるだろう。それは呪いが消えたからじゃないぜ?呪いがお前に成ったからだ。今じゃ母体……いや、実家のような?安心感ってやつに感じるだろ」

「ん、ほんとだ。そういえば水もにおいしい」


 手のひらに掬った水は、呪いが満ちているのに、とても澄んでいて美味しい。ボトル一本いくらの水というよりは、実家の麦茶の美味しさだ。


「普通の人間には、猛毒もいいところだから気をつけろよ?」

「わかった」


 水を飲むあたしを後ろから覗き込んでいたドラスは、気が済んだのか、さっきの戦闘で地面が抉れた辺りに戻って、槍を構え出した。


「もうたたかい、いらないでしょ?」

「魔力感知だけじゃなくて、こっちに目線を向けろ、リリー。頭の機能が戻っただけじゃ、外には出れねえ。少なくともその垂れ流しの魔力を制御できるようにならねぇと、お前はただの迷惑だ。何、勝手に殺す気で攻めてやる。まともになるまで死ぬ気で生きろ」


 こうして、ドラスが仲間?になった私は、彼女のおかげでヒトとしての意識を取り戻した。

 テンプレみたいな復讐もいいけど、とりあえずは、ドラスから生き延びるよう頑張ろうと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ドラスロールとの戦闘と対話を通じて記憶を呼び起こし、自分の名前や過去の理不尽な死、そして両親への思い出を取り戻していく流れがとてもドラマチックですね。 復讐譚だけど「胸が減ってる?」「実家の麦茶の美…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。