11、ワン・ワン
「《鎖縛二条》!」
掛け声のような詠唱と共に、輝く二条の糸がグノーシアの背後から放たれ、デカい鶏……じゃなくて、炎鳥エンカレウスの頭上を超えていく。
「しあ、えらい!」
金の糸を足場がわりに駆け抜けて、エンカレウスの頭上をとる。
炎鳥は、鳥特有の素早い動きで頭上の私を見据える。喉元で魔力が溜まっているを感じる。
しかし、炎のブレスは完成する前に掻き消える。
「《破錠》っです!」
「……とった!」
拳に魔力を込めて振り下ろす。
私の呪いに似た赤い魔力の爪が形をなし、鳥の頭蓋を抉り壊した。
「……これで、巣を壊されてブチギレたエンカレウスの群れも全滅!クエストもクリア。いやー、ごくろーだ、二人とも!」
「うん、おつかれ。グノーシアも」
「なんかっ、私だけっ、たいへんじゃないですか?」
集落近くの渓谷で大所帯の巣を形成していた炎鳥エンカレウス。
羽ばたいて逃げようとする彼らを、黒槍一本で私たちの近くに叩き落とし続けたドラスロールは、今までになくご満悦だ。
流石にいい運動量だったのだろう。息切れはしてないけど、執事姿のシャツが汗で貼り付いて透けている。
あれが普通の人間なら、谷間に汗疹とかできそうだ。
「ひっさびさにいい運動したな、お嬢!いやーこういう仕事の肌に馴染むこと、馴染むこと」
確かに、憤怒の森でドラスにボコボコにされた時以来の運動量だ。
この体は汗かくとか無い。それでも何故か、生き物やってる感じがして気分がいい。本当は死体みたいなものなのに。
「数人がかかりで挑む炎鳥を、どうしてこの量っ!私たちで!?」
「まだまだ、きたえがたらないね、シア」
対してシア……グノーシアは疲労困憊ってかんじ。
無理もない。私たち二人は四方から襲ってくる炎鳥を相手したのだ。鳥の十八番の炎のブレスをシアが無効化。足止めをしてる間に私がボコす。
シアからすればほとんどが即死級の攻撃、緊張感も一入だっただろうだっただろう。
一方私は……私は、体の呪いが溢れないように意識しつつの戦闘だった。
鎧姿のアークマン相手の時は、集中しながら呪いを魔力に分解することができた。盗賊とのバトルでは、体に余ってる魔力で十分だった。
今回は違った。
ブレスを正面から浴びることもあったし、物量勝負みたいな面もあった。
「憤怒の森」での戦闘の時みたいに、呪いを躍動させながら戦うしかなかった。のに
「あたしは、なんかよゆうあったかも」
呪いの制御がとてもやりやすかった。
体の表面に薄い殻ができたみたいに、溢れ出そうとする呪いが、そこで止まる。肌が硬くなったのかも、と思って、つねってみるけど、ぷにぷに少女の柔肌のままだ。
心当たりがあるとすれば、アークマンが差し込んできた刃。確か……
「凱双の人理剣、でしたっけ、私も見たことのないお師匠様の使ったモノ。ドラスロールの言う通りなんでしたら、人の形を規定する呪術、のようなものでしょうか。あれが打ち込まれてから、リリーの魔力波が……言葉を選ばず言うなら、イヤな刺激がなくなったように感じます」
「うん、それ。なんかラクになった、かも」
ゾンビみたいな私の状態に、人間にする魔法を使ったら、そりゃ効きもするか。何がしたかったのかは分からないけど、ありがとう、アークマン。
炎鳥エンカレウスの巣を破壊し、ついでにその群れの討伐も終えた私たちは、依頼をしてきた集落まで戻ると、すぐにドラスへの馬車の手配をした。
数日ぐらい滞在しても良かったけど、集落の人手全部ででエンカレウスの処理をしなきゃいけないみたいで、悠長に私たちの相手をしてくれる余裕はなさそうだ。魔獣の肉を放置すると、もっと厄介な魔獣が寄ってきてしまうコトもあるらしく、そういうことなら仕方ない。
「なるほど、そういう事情で、商人ギルドへ人手の要請を伝えにいく僕たちに同行すると」
炎鳥エンカレウス討伐の翌日。私たちはドルキへ向かう商人の馬車に乗せてもらっていた。頭を下げる集落の人たちの声に、目の前の商人が快諾した形だ。
「うん。ありがと、のせてくれて」
「いいんですよ、僕たちも暇な旅程に賑やかしが増えるのは嬉しい」
金髪のおかっぱのような髪型。教会の人間のような品の良さがあるこの人、サイと言うらしい商人は、かなり広めの馬車なのに、圧迫感を与える高身長だった。
デカいと言うより、長い。
「そうそう!こいつと二人とか、マジアリエネーって感じ。カンゲイするぜ〜お三方」
その横の美少女は、活発なゴスロリ?みたいな感じ。笑い声と共に、その紫紺の髪が跳ねるのは、見ているこっちが元気になりようなほどにエネルギッシュだ。
「ボクの名前はシノ。こいつも私も、同じ死の商人ってやつ!殺すためのものならなんでも売るぜ〜」
「シノ、皆さんがびっくりするからやめてくれ」
「気になさんな。俺たちも今は冒険者。命が絡んでるのはお互い様だ」
こういう時には、ドラスの無神経な言い草が頼りになる。
「いえ、やはり聞いてて気分のいい話じゃない。気を悪くしたらすまないね」
「あーあ。お前は「売る」より何より「造る」方だもんな!流血沙汰が嫌いとか意味ワカンネー。ボクからしたら、商品が使われるチャンスが増えるほどいいと思うんだよなー」
「「使う」が最大化されるなら、流れる血はどれだけ多くてもいい貴女も、十分僕らの素養がありますよ」
商人、なんて言ってるけど、元日本人の私がイメージする八百屋さんみたいな姿と、この二人の姿は大きく違う。乗ってる馬車だって貴族顔負けの高級感だし、その服装、喋り方まで、どこか一般人でない何かを感じる。
魔力だって、垂れ流しの庶民な感じじゃなくて、どこか洗練されている訓練由来のものだ。
あれか、ブルジョワ、とはこういう人たちを指す言葉だったはずだ。やっぱりすっごくお金持ちなんだろう。
「ともあれ、事実として僕らは死の商人。自分の作品を世に広げることが僕らの自己の確立。古い僕らの名称は「雷炎を簒奪する十一」。人にはサイ=ワンワンと名乗っている。好きに呼んでほしい」
「わんわん」
犬か。
いや、言語化が難しい。地球に住んでいた頃の言語でも、犬の幼児語になるけど、こっちの世界の言語でも偶然おんなじニュアンスになっている。わんわんって、ちょっと可愛すぎるだろ。
「そ、だからあたしもシノ=ワンワン。……っていっても兄弟とかじゃないから、間違えないでネ!」
「そういえば、その、シノさんの横の大きな包みは一体、なんなんですか?」
シアから当然の疑問。
そう。ワンワン兄妹?のシノの横には、人と同じぐらいの大きさの何かが、布に包まれて置かれている。
シノの両サイドには巨躯の金髪と、巨大な何かがある形になる。
馬車自体が広いので狭そうではないが、小娘三人分のこちらに比べてもやや圧迫感に優っている。
「あーこれ?ボクの商売道具。兼、護身用のアイテム。制圧がお求めならボクに相談!だぜ。ヨロシク!」
「売り込みもほどもどにしてください、シノ。相変わらずデカイ呪器です。それより」
「そうだネ、あたしたちは貴女たちの話が聞きたいわー。正直商人やってると疲れっし!」
死の商人、なんていうと怖い感じだったけど、どうやら二人は武器とか魔法具とか扱ってるっぽい雰囲気だった。そういう側面があるのも嘘じゃないから、最初に開示した、みたいな。
二人はお菓子とお茶もわけてくれて、私たち五人はくだらない話をして移動時間の暇を潰した。
グノーシアの装備なんかは、二人のお眼鏡に適ったらしくて、ずいぶん色々質問されていた。やっぱり宮廷魔術師時代の装備とか、すごいのあるんだろうか。
日が沈みかけているドルキに着いたところで、二人のワンワンとは解散した。
しばらく冒険者やりつつ、お金とこの身体への理解をためれたら、とりあえずは実家に戻りたい。そのどこかでは助けになってくれそうな二人だった。
とりあえず、今度あったら私用の武器でも相談してみよう。
「あ、リリー!ドラスロールが夕飯を用意してくれましたよー」
「はーい。今行く〜」
ま、偶然に会った今回みたいに、次も会う縁があったら、だけど。




