表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/11

第7話 仕組まれた狩場

 しかし、門をくぐり抜けた先は、切り立った岩壁に囲まれた、広大なすり鉢状の空間だった。


 この空間にはいくつかの門があるものの、そのすべてが閉ざされている。


 岩壁には無数の松明がかかげられ、逃げ場のない広場を、赤黒い炎が不気味に照らし出していた。


 歓喜の声が、どよめきに変わる。


 広場の中央、燃えさかる炎を背にして――これまでに見たどのオニよりも、ひときわ巨大な影が立ちはだかっていたからだ。


 重苦しい威圧感が、その場にいる全員の身体を縫い止める。


 ここは、周到に用意されていた狩場だった。

 愚かにも人間たちは、自ら進んでそこへ入りこんでしまったのだ。


「よくぞ迷いこんだ、浅ましい角無しどもめ」


 炎の影から一歩を踏み出したのは、真紅の肌と、天を突くような二本の角を持つオニだった。


 その手には、大人が三人がかりでも持ち上がらないほどの、巨大な金砕棒が握られている。


「我が名はグレン。穏ヶ島を侵す不届き者どもよ、その命、我が贄としてくれよう」


 グレンの名乗りにあわせて、燃えさかる炎が火力を増した。


 この場に居合わせる人間、すべての顔を明るく照らす。


 関所を突破したと思いこんでいた男たちの間に、絶望が押し寄せた。

 逃げ場のない広場は、彼らの死地と化したのだ。


 グレンの眼光がぎらつき、ねらいを定める。


 突き出された巨大な金砕棒が、横一文字に払われた。


 爆発的な風切り音を置き去りに、その一撃が、正面に立ちつくしていた男たちをまとめてはじき飛ばす。


 その暴力を目の当たりにして、男たちは恐慌状態におちいった。


 逃げ出そうとしてはたたきつぶされ、挑みかかっては返り討ちにあっていく。


 そして、ついにはグレンの視線が、モモたちへと向けられた。


 血にぬれた金砕棒が無造作に担ぎ上げられ、その腕が盛り上がる。


「……させねえよ」


 低くつぶやいたクロウが、大剣を構えて、グレンのふところへと飛びこんだ。


 シキもまた血に染まった衣服をひるがえし、ねらいすました刀を鋭く突き出した。


 だが。

 グレンの一撃は、二人の必死の抵抗を、たやすく打ち砕いた。


 振り下ろされた鉄の塊が、大剣ごとクロウの身体を地へたたきつける。


 モモを抱き寄せた、あの力強い腕が――あらぬ方へと、曲がっている。


「うあッ!」


 シキのさけびも、次の一撃によって断ち切られた。


 払われた金砕棒が、細い身体を岩壁まで吹き飛ばす。

 シキの体はそのまま崩れ落ち、動かなくなった。


 グレンは、振り払った人間に見向きもしなかった。


 大勢の中の二人を片付けたに過ぎない。

 そう言わんばかりの表情で、面白くもなさそうに吐き捨てる。


「口ほどでもない」


 そうして、一人残されたモモへと、歩を進める。

 金砕棒が、頭上高くに振り上げられた。


 未来を変えるために、モモは必死にさけんできた。


 座礁の危機を知らせ、東の砦を避け、死の記憶をくつがえすために、ここまで走ってきたはずだった。


 それなのに――。


 自分がもたらした結末は、二人を、周りの者たちを、より残酷な死へと放りこむだけだったのか。


 涙のにじむ瞳は、眼前にせまる死さえとらえず、ただ虚空を映している。


 袋小路の戦場に、冷たい夜霧が立ちこめる。


 そして、重い鉄の塊が、振り下ろされた――かに思われた、刹那。


 モモのなかで張りつめていた感情の糸が、音を立てて切れた。


「ああああああああーーーーーッ!」


 モモの裂けるような悲鳴とともに、その身体から、白い光が噴き出した。


 あふれ出た光は、広場の惨状を、松明の炎を、跡形もなくかき消していく。


 世界のすべてを白一色へと塗りつぶしていく、光のうず。

 そのなかで、グレンは振り下ろした金砕棒を止めたまま、大きく目を見開いた。


「まさか、あの器が……なぜここに……」


 驚愕にふるえるオニの声さえも、白い濁流がのみこんでいく。


 感情の爆発に任せるまま、力を解き放った代償は、あまりにも重かった。


 魂を根こそぎ削り取られるような、強烈な脱力感が、モモの身体を襲う。


 眼を開くことも、考えることもできないまま。


 モモの意識は、底のない深い闇の中へと、沈んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ