第40話 閃光の策
翌朝、窓から差しこむ朝光のなかで、四人はふたたび居間の木机を囲んでいた。
夕べの険悪さは幾分か鳴りをひそめ、卓上にはシキが整理した木札と、トウヤの持ってきた古い海図が広げられている。
「さて、あらためて情報を整理しましょうか」
トウヤは薄紫色の双眸をモモへと向け、語り始める。
モモがこれまで遡行を繰り返しながらも知り得なかった、穏ヶ島の真実。
それが、青年の口からよどみなく明かされていく。
「首領のグレンは、ただの残虐な王ではありません。かたくななまでに古き掟を守り、巨大な力の暴発を防ぐために、一族のすべてを賭して祠を守護している男です。そして、僕の弟であるビャクヤ……」
トウヤの声に、深い情愛がにじむ。
「あの子は、自らの血に宿る浄化の光の力で、オニたちの荒ぶる本性を鎮めようとしました。知性と慈しみの心を育て、共生の世界を作ろうとした、優しい子です。だけど、その光は強すぎました。オニどもは、生来が夜の住民です。闇のなかでこそ本領を発揮する奴らにとって、ビャクヤの放つ光は、その存在をおびやかす脅威に他なりませんでした」
「光が、オニの弱点……」
シキがあごに手を当てて、つぶやく。
「つまり、奴らと刃を交えずに退けるには、その夜行性の眼をくらませるほどの、強烈な光を放つ道具があればいいということか」
「理屈としてはその通りです」
トウヤがうなずく。
「かつて都にいたころ、異国の技術を用いた火薬の一種で、すさまじい閃光を放つ道具があると聞いたことがあります。それがあれば、オニの目をくらませることができるでしょう」
「それなら、火薬を扱う商人のところへ行けば手に入るな!」
クロウが身を乗り出したが、シキは首を振ってそれをさえぎった。
「そう簡単にはいかないよ。異国の火薬を用いたそんな特殊な道具は、極めて高額だ。とても僕らが買えるような代物ではない」
「資金のことであれば、心配いりませんよ」
トウヤが胸元から、金貨のつまった袋を取りだし、木机の上に置いた。
「都で商人として働いていたころの蓄えです。宝飾品もすべて、換金してしまいましたからね。もともとは、ビャクヤのために集めたもの。これを自由に使ってくれて構いませんよ」
惜しげもなく差し出された軍資金を前に、モモがじっと自分の右腕を見下ろし、それから顔を上げた。
「シキ、トウヤ。その光を放つ道具が手に入ったら、わたし、試してみたいことがあるの。わたしのこの右手の結晶はね、ビャクヤの光と深くつながっているの。もし、その道具の中に、この結晶を通じて浄化の光の力をこめることができれば……ただの目つぶしじゃない、オニの戦意をくじく、特別な武器になる気がするの」
モモの提案に、シキとトウヤは顔を見合わせ、その理路の確かさに、小さくうなずいた。
「今は、なんだって試してみよう」
それからしばらくの間、熱のこもった討論が続いた。
やがて話が一段落すると、クロウが立ち上がり、悪童のような笑みを浮かべた。
「俺はまず、金物屋へ行ってくる。大剣は仲間に預けちまったからな。誰も斬り殺さずにたたき伏せるには、新しい得物を仕入れてこねえと」
「僕は、以前に火薬を取り扱う富商の用心棒を引き受けたことがある。その時のつてをたどり、閃光弾を融通してもらうよう、交渉へ行ってこよう」
「わたしは、美味しいお昼の支度をしておくね」
「では、僕もともにお留守番を――」
トウヤがしれっとモモの隣に並ぼうとしたが、すかさずクロウの大きな身体が、その行く手をはばんだ。
「却下だ、白髪野郎。お前にはお前の仕事があるだろうが」
「手厳しいですね」
トウヤは肩をすくめ、外套の頭巾を深くかぶり直した。
その薄紫色の瞳に、抜け目のない鋭い光が戻る。
「仕方ありません。僕は、例の乗組員を募集している船のところへ行ってきますよ。穏ヶ島の生き証人が現れたとなれば、喜んで案内人として僕を雇い入れるでしょう。船の戦力や、航路、出航がいつなのかと、肚の内をのぞいてきます」
話が終わると、誰からともなく、席を立った。




