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第84話 「戦後と違和感」

 静かだった。



 あれだけの戦いがあったのに。



 今は。



 音がない。



 拠点の外。



 倒れた屍影の残骸。



 黒く。



 崩れていく。



「……引いたな」



 蓮斗が言う。



 息を整えながら。



「助かったって言うべきか……」



「違うな」



 悠真が答える。



「勝ってない」



 短く。



 確信を持って。



 白峰 蓮も頷く。



「統制核は残っている」



「撤退しただけだ」



 事実だった。



 終わっていない。



 ただ。



 止まっただけ。



 その時。



「おかえり」



 声。



 黒崎 美月。



 少しだけ笑っている。



 でも。



 目は。



 安心しきっていない。



「……大丈夫だった?」



「なんとかな」



 蓮斗が笑う。



 軽く言う。



 でも。



 少しだけ無理している。



 美月はそれを見る。



 何も言わない。



 ただ。



「……よかった」



 それだけ言う。



 その一言で。



 少しだけ。



 空気が緩む。



 拠点の中。



 人が動いている。



 負傷者の手当。



 補修。



 確認。



 戦いは終わっても。



 やることは終わらない。



「損害は?」



 悠真が聞く。



 白峰 恒一が答える。



「軽傷多数」



「重傷はいない」



 短く。



 だが。



 良い結果だった。



「……よく耐えたな」



 黒崎 恒一が言う。



 周囲を見る。



 全体を。



「流れが止まらなかった」



「それが全てだ」



 静かに言う。



 確かに。



 誰も止まらなかった。



 それが。



 崩れなかった理由。



 その時。



「ぴー……」



 ぴーちゃんが小さく鳴く。



 少しだけ元気がない。



「いっぱい回復した……」



「ちょっとつかれた……」



 ふらふらと浮く。



 美月がそっと手を出す。



「ありがとう」



 優しく言う。



 ぴーちゃんが少しだけ嬉しそうにする。



 その光景。



 少しだけ。



 平和に見える。



 だが。



 違う。



 悠真は外を見る。



 ダンジョン。



 黒い穴。



 変わらない。



 でも。



 確実に。



 違う。



「……あれ」



 小さく呟く。



「どうした?」



 白峰 蓮が聞く。



「……いや」



 言葉にできない。



 でも。



 感じる。



 あの時。



 統制核が。



 逃げた瞬間。



 あれは。



 ただの行動じゃない。



 判断だった。



 “見ていた”。



 そんな感覚。



「……試されたな」



 小さく言う。



 白峰 蓮が頷く。



「同意する」



「戦闘というより」



「観察に近い」



 その言葉。



 重い。



 蓮斗が少しだけ顔をしかめる。



「気持ち悪ぃな」



「敵に見られてるとか」



 その時。



 黒崎 恒一が言う。



「当然だ」



 短く。



「相手も学ぶ」



「それが戦いだ」



 シンプルな言葉。



 だが。



 逃げ場はない。



 その瞬間。



 全員が理解する。



 これは。



 終わりじゃない。



 むしろ。



 始まりだ。



 外。



 ダンジョンの奥。



 暗闇の中。



 何かが、動く。



 屍影でもない。



 統制核でもない。



 もっと奥。



 もっと深い場所。



 “それ”は。



 確実に。



 認識していた。



 拠点を。



 人間を。



 そして。



 “次”を。



 戦いは終わっていない。


 それどころか。


 始まったばかりだ。



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