第80話 「備える者たち」
夜は、終わらない。
拠点は静かだった。
だが。
止まってはいない。
動いている。
静かに。
確実に。
「外周、防壁の最終確認終わりました」
「よし、そのまま東側も見てくれ」
桐谷 恒一郎が指示を出す。
声は低い。
だが。
迷いがない。
手は止まらない。
木材。
補強。
組み上がった防壁をさらに固めていく。
「ここ、少し弱いな……」
小さく呟きながら。
修正する。
“守る形”を。
完成させていく。
その近く。
「温かいもの、少し多めに用意しますね」
桐谷 直子。
火を見ながら言う。
疲れはある。
でも。
手は止めない。
「戦った後、冷えるときついですから」
自然な言葉。
戦いを前提にした準備。
それが。
当たり前になっている。
別の場所。
白峰 恒一が紙を広げている。
「配置はこのままでいい」
「問題は“流れ”だ」
周囲の人間に言う。
「詰まると崩れる」
「動きを止めるな」
シンプル。
だが。
重要な指示。
拠点は“流れ”で動いている。
止まれば。
終わる。
その時。
「……みんな、無理してない?」
黒崎 美月。
周りを見る。
大人たち。
疲れている。
でも。
動いている。
「大丈夫よ」
桐谷 直子が笑う。
「こういうの、慣れてるから」
優しい声。
でも。
それだけじゃない。
覚悟がある。
守る側の。
その時。
「……美月」
黒崎 恒一の声。
「こっちだ」
呼ばれる。
近づく。
「……何か、気になるか」
短く聞く。
美月は少しだけ考えて。
「……怖い」
正直に言う。
「また来るの、分かってるから」
黒崎 恒一は頷く。
「そうだ」
否定しない。
「だが」
「怖いままでいい」
静かに言う。
「それを忘れるな」
その言葉。
強かった。
美月は小さく頷く。
「……うん」
その感情。
消さない。
それが。
大事だから。
一方。
外側。
悠真たち。
「配置、最終確認終わり」
蓮斗が言う。
「問題なし」
白峰(子)が答える。
玲奈は無言。
ただ。
ダンジョンを見る。
悠真も視線を向ける。
黒い穴。
変わらない。
でも。
確実に。
何かが動いている。
「……来るな」
小さく言う。
その直後。
「……っ!」
空気が変わる。
風が止まる。
音が消える。
そして。
ダンジョンの奥。
闇が揺れる。
「……始まるぞ」
悠真が言う。
蓮斗が笑う。
「待ってたぜ」
白峰は冷静に構える。
玲奈は静かに動く。
拠点の中。
外。
全てが繋がる。
守る準備は整った。
あとは。
来るだけだ。
備えた者だけが、生き残る。
そして。
戦いは、もう目の前にある。




