第78話 「外を見る者」
外に出る。
久しぶりだった。
拠点の外。
空気が違う。
静か。
でも。
重い。
「……やっぱ違うな」
蓮斗が言う。
「中と外じゃ別世界だ」
白峰が周囲を見る。
「音が少ない」
「それでいて、気配はある」
玲奈は何も言わない。
ただ。
前を見ている。
ダンジョンの方向。
悠真も視線を向ける。
黒い穴。
あの日から変わらないはずのもの。
でも。
「……違うな」
小さく言う。
「何がだ?」
蓮斗が聞く。
「……分からない」
はっきりしない。
でも。
確実に。
何かが違う。
その時。
「……動き」
玲奈が言う。
短く。
でも。
的確に。
「……増えてる」
白峰が頷く。
「密度が上がっている」
視界の端。
影。
数が多い。
以前より。
確実に。
「……集まってるな」
蓮斗が言う。
ただ彷徨っているわけじゃない。
“寄っている”。
ダンジョンに。
「……なんでだ」
白峰が考える。
「理由は不明」
「だが」
「変化は確実に起きている」
悠真は黙って見る。
ダンジョン。
ただの入口じゃない。
何かの中心。
そんな感覚。
その時。
「……っ!」
影が動く。
速い。
今までより。
「……来るぞ!」
蓮斗が構える。
接近。
一体。
でも。
動きが違う。
速い。
鋭い。
「……っ!」
受ける。
重い。
前より強い。
「……強くなってる!」
蓮斗が叫ぶ。
玲奈が動く。
一瞬で距離を詰める。
斬る。
倒れる。
でも。
完全じゃない。
反応が遅れている。
少しだけ。
「……進化してるな」
白峰が言う。
分析する。
「単純強化ではない」
「行動が変わっている」
悠真はその言葉を聞く。
そして理解する。
これは。
最初の時とは違う。
あの時は。
ただの未知だった。
でも今は。
“変化する未知”だ。
「……まずいな」
小さく言う。
「どうする?」
蓮斗が聞く。
悠真はダンジョンを見る。
黒い穴。
あそこが原因。
間違いない。
でも。
今は。
「……戻る」
短く言う。
「情報持ち帰る」
白峰が頷く。
「正解だ」
玲奈も無言で同意する。
無理はしない。
今はまだ。
分からないことが多すぎる。
そのまま。
拠点へ戻る。
中に入ると。
空気が変わる。
安心。
温かさ。
人の気配。
でも。
悠真の中では。
何かが変わっていた。
「……進んでるな」
小さく言う。
世界は止まっていない。
むしろ。
加速している。
自分たちが。
止まっていた間も。
ずっと。
その夜。
黒崎 恒一に報告する。
「……なるほどな」
静かに聞く。
そして。
「想定内だ」
短く言う。
「……想定内?」
「止まるわけがない」
当然のように言う。
「外は常に進む」
「だから」
「止まるな」
その言葉。
重い。
でも。
はっきりしている。
悠真は頷く。
「……ああ」
守るだけじゃ足りない。
進まないといけない。
それが。
この世界のルールだ。
外は、止まらない。
だから。
こちらも止まれない。
それを。
改めて理解した日だった。




