第76話 「守られている側」
朝だった。
少し冷たい空気。
でも。
昨日とは違う。
怖くない。
「……ここ」
小さく呟く。
黒崎 美月。
周りを見る。
人が動いている。
忙しそうに。
でも。
怒っていない。
怖くない。
それだけで。
少し安心する。
「美月ちゃん、こっち手伝ってくれる?」
声をかけられる。
「……はい」
少しだけ緊張しながら。
動く。
水を運ぶ。
重い。
でも。
持てる。
少しだけ。
役に立てている気がする。
「ありがとうね」
そう言われる。
それだけで。
胸が少し温かくなる。
少し離れた場所。
桐谷 直子がいる。
「無理しないでね」
優しい声。
自然に出る。
母親の声。
その周りには。
子供たち。
少しずつ笑っている。
泣いていた子も。
今は。
落ち着いている。
「……すごいな」
誰かが言う。
それは。
桐谷 恒一郎。
木材を組んでいる。
防壁。
少しずつ。
形になっている。
「これで少しは楽になる」
白峰 恒一もいる。
何かを書いている。
配置。
流れ。
全部を整理している。
それぞれが。
やるべきことをやっている。
誰かに言われたわけじゃない。
でも。
回っている。
その中心に。
いる人たち。
悠真。
蓮斗。
白峰。
玲奈。
そして。
祖父。
黒崎 恒一。
美月は、その背中を見る。
「……お兄ちゃん」
小さく呟く。
昨日。
戦っていた。
ずっと。
見えないところで。
怖かった。
ずっと。
でも。
戻ってきた。
ちゃんと。
だから。
今。
ここにいられる。
「……守ってくれてる」
その実感。
はっきりと。
胸にある。
でも。
それだけじゃない。
この場所は。
あの人たちだけじゃない。
みんなで。
支えている。
だから。
壊れない。
その時。
誰かが言う。
「ここ、いい場所ですね」
別の家族の人。
少しだけ笑っている。
「……ああ」
誰かが答える。
「ここなら、生きていける」
その言葉。
強かった。
戦う強さじゃない。
続ける強さ。
それがある。
美月は、小さく頷く。
「……うん」
ここは。
大丈夫。
そう思えた。
初めて。
心から。
そう思えた。
守る人がいるから、生きられる。
そして。
支える人がいるから、続いていく。
それが。
この場所の本当の強さだった。




