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第55話 「選別の現場」


 混乱していた。


 完全に。


「次の搬送、急げ!」


 怒号が飛ぶ。


 ヘリの音。


 サイレン。


 叫び声。


 すべてが混ざっている。


「収容人数が足りません!」


「分かっている!」


 指揮官が叫ぶ。


「優先順位を維持しろ!」


 モニターには。


 映像。


 街。


 影。


 逃げる人々。


 そして。


 “選ばれていない人間”。


「……くそ」


 若い隊員が呟く。


「見捨てるんですか」


 静寂。


 指揮官は、一瞬だけ黙る。


 そして。


「……見捨てているわけじゃない」


「選んでいるだけだ」


 その言葉。


 重い。


「違いはあるんですか」


「ある」


 即答。


「全員は救えない」


「だから」


「残す」


 現実だった。


 誰も反論できない。


「……次の区域!」


「はい!」


 モニターが切り替わる。


 そこに映ったのは。


 一つの映像。


「……なんだこれ」


 隊員が呟く。


 そこには。


 人の集団。


 十人以上。


 そして。


 影。


 囲まれている。


「……間に合わない」


 誰かが言う。


 でも。


 次の瞬間。


 影が、崩れる。


 一瞬で。


「……は?」


 動きが止まる。


 映像を拡大する。


 そこにいるのは。


 数人。


 たった、それだけ。


 でも。


 動きが違う。


 連携。


 速度。


 判断。


 全部。


 異常。


「……なんだ、あれ」


 隊員が呟く。


 指揮官も、黙る。


 そして。


「……救出している」


 その一言。


 誰も、言葉を返せない。


 見捨てられるはずだった人間。


 選ばれなかった人間。


 その全員を。


 連れていく。


「……ありえない」


「非効率だ」


 誰かが言う。


 でも。


 否定できない。


 現実として。


 成立している。


「……追跡しろ」


 指揮官が言う。


「対象は優先観察」


「はい!」


 映像を切り替える。


 別の場所。


 建物の上。


 一人。


 立っている男。


 周囲には。


 影。


 でも。


 襲われていない。


「……これは」


 隊員が呟く。


「……戦っていない」


「……違う」


 指揮官が言う。


「排除している」


 その男が動く。


 一瞬。


 影が消える。


 でも。


 それだけ。


 他の人間には、目も向けない。


「……救助行動なし」


「対象は無視」


「完全な選別行動」


 静寂。


「……どっちが正しいんだ」


 誰かが呟く。


 誰も答えない。


 全員救う者。


 選んで救う者。


 誰も救わない者。


 その三つが。


 同時に存在している。


 そして。


 世界は。


 崩れている。


「……記録しろ」


 指揮官が言う。


「この二つは」


「今後の基準になる」


 その言葉。


 重い。


 何が正しいのか。


 まだ誰も知らない。


 でも。


 選ばなければならない。


 この世界で。


 生きるために。


 命は、選ばれている。


 そして。


 選び方も、試されている。


 それが。


 今の現実だった。



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