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第54話 「救わない者」

戻る。


 人を連れて。


 数が増える。


 足が遅くなる。


 でも。


 止まらない。


「……急げ!」


 蓮斗が言う。


 振り返る。


 連れている人たち。


 震えている。


 でも。


 ついてきている。


「……もう少しだ」


 声をかける。


 その時。


 違和感。


「……?」


 玲奈が止まる。


「……いる」


 ぴーちゃんが震える。


「……いや」


 視線の先。


 建物の上。


 一人。


 立っている。


 動かない。


 ただ。


 見ている。


「……誰だ」


 蓮斗が言う。


 白峰が、わずかに目を細める。


「……異質だな」


 その男。


 影に囲まれている。


 でも。


 襲われていない。


 むしろ。


 避けている。


「……おい」


 蓮斗が言う。


「なんで襲われてねぇ」


 答えはない。


 でも。


 分かる。


 普通じゃない。


 その男が。


 ゆっくりと、こちらを見る。


 目が合う。


 冷たい。


 何もない。


 感情が。


 ない。


「……助けないのか」


 自然に出る。


 下にいる人たち。


 影に追われている人もいる。


 でも。


 その男は。


 動かない。


「……必要ない」


 短い返答。


「……は?」


 蓮斗が言う。


「助けろよ」


「なぜ?」


 返される。


 迷いなく。


「弱い」


「価値がない」


 その言葉。


 空気が凍る。


 玲奈が、低く言う。


「……ちがう」


 ぴーちゃんが震える。


「……いや」


 白峰が言う。


「極端な合理主義だな」


 祖父が言う。


「違う」


「ただの切り捨てだ」


 その男は、少しだけ笑う。


「同じだ」


「……何がだ」


「選んでいる」


「お前たちも」


 静寂。


「……違う」


 はっきりと言う。


「選ばない」


 その言葉。


 男が、わずかに目を細める。


「非効率だ」


「……関係ない」


「全員助ける」


 その一言。


 空気が変わる。


 男は、少しだけ笑う。


「……面白い」


「だが」


「無理だ」


 その断言。


 でも。


 迷いはない。


「……やる」


 短く言う。


 男は、しばらくこちらを見る。


 そして。


「……好きにしろ」


 そのまま。


 視線を外す。


 また。


 動かない。


 ただ。


 見ているだけ。


 助けない。


 関わらない。


 ただ。


 生き残るために。


 必要なことだけをする。


 それが。


 あの男。


「……なんだあいつ」


 蓮斗が言う。


 白峰が答える。


「最適化された人間だな」


 祖父が言う。


「違う」


「人間じゃない」


 その言葉。


 重い。


 玲奈が、ぽつりと言う。


「……こわい」


 ぴーちゃんが震える。


「……いや」


 俺は、前を見る。


 ああいうやつもいる。


 救わないやつ。


 選ぶやつ。


 切り捨てるやつ。


 でも。


 俺たちは違う。


 選ばない。


 全部。


 救う。


 それが。


 俺たちの道だ。


 だから。


 止まらない。


 進む。


 人を連れて。


 守るために。


 その覚悟があるから。


 救う者がいる。


 選ぶ者がいる。


 そして。


 救わない者もいる。


 それが。


 この世界だった。



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