第53話 「選ばれる命」
走る。
妹を連れて。
戻る道。
でも。
止まらない。
「……まだだ」
蓮斗が言う。
「終わってねぇ」
「……ああ」
分かっている。
まだいる。
近所の人。
助けを求めていた人たち。
全部。
守ると決めた。
だから。
戻らない。
もう一度。
進む。
その時。
音。
上空。
「……ヘリか?」
蓮斗が見上げる。
確かに。
ヘリ。
数機。
低空で飛んでいる。
そして。
放送。
『こちらは政府緊急対策本部です』
全員が止まる。
『ダンジョン内部が安全領域であることが確認されました』
知っている。
でも。
続きがあった。
『現在、優先収容対象を選定しています』
空気が止まる。
「……は?」
蓮斗が呟く。
『子供・医療従事者・国家機能維持要員を優先します』
『それ以外の方は指示を待ってください』
静寂。
玲奈が、低く言う。
「……選んでる」
ぴーちゃんが震える。
「……いや」
白峰が言う。
「合理的だ」
「……おい」
蓮斗が睨む。
「でも」
白峰が続ける。
「正しいとは限らない」
祖父が言う。
「当たり前だ」
その時。
下を見る。
人がいる。
数人。
手を振っている。
でも。
ヘリは止まらない。
通り過ぎる。
「……おい」
蓮斗が言う。
「今の見たか」
「……ああ」
分かっている。
選ばれていない。
だから。
助けられない。
政府の判断。
効率。
優先順位。
全部。
理解はできる。
でも。
「……やらない」
自然に出る。
蓮斗が笑う。
「だよな」
玲奈が、静かに頷く。
「……全部」
ぴーちゃんが、強く光る。
「……たすける!」
白峰が言う。
「非効率だ」
「だが」
「我々の方針とは一致している」
祖父が言う。
「選ばない」
短い。
でも。
強い。
もう決まっている。
誰も見捨てない。
全員。
助ける。
そのために。
ここまでやってきた。
だから。
止まらない。
下に降りる。
人の元へ。
「……大丈夫か!」
声をかける。
振り返る。
驚いた顔。
でも。
すぐに。
涙。
「……助けて」
その一言。
十分だった。
「……任せろ」
そう言って。
手を伸ばす。
掴む。
引き上げる。
連れていく。
帰る場所へ。
守る場所へ。
その後ろで。
ヘリは遠ざかる。
選ばれた人たちを乗せて。
選ばれなかった人たちを残して。
でも。
俺たちは違う。
選ばない。
全部。
守る。
それが。
俺たちのやり方だ。
命は、選ぶものじゃない。
だから。
全部救う。
それが。
この世界での。
俺たちの答えだった。




