第457話「明日へ続く灯」
夜更け。
神城家の明かりだけが、静かな町に優しく灯っていた。
縁側では悠真が湯飲みを手に、虫の音へ耳を傾けている。
昼間に補修した柵は風にも揺れず、畑では水を吸った土が静かな匂いを漂わせていた。
「まだ起きていたのか。」
恒一が隣へ腰を下ろす。
「少しだけ。」
悠真は微笑みながら答えた。
二人の間には沈黙が流れる。
気まずさではない。
言葉が必要ないほど長い時間を共に歩いてきた者だけが持つ、穏やかな静けさだった。
「この町も変わったな。」
恒一が遠くを見つめる。
「ええ。」
「だが、人は変わらん。」
その言葉に悠真は小さく頷いた。
嬉しい時には笑い。
悲しい時には泣き。
誰かが困れば手を差し伸べる。
世界病があっても。
白影が空に浮かんでいても。
その営みだけは、何一つ変わらなかった。
「悠真。」
「はい。」
「明日も朝は来る。」
恒一はそれだけ言って立ち上がった。
「だから今日はもう休め。」
「はい。」
居間からは美月の笑い声が聞こえてくる。
ぴーちゃんはもう眠ってしまったのだろう。
玲奈がそっと布団を掛ける姿が障子越しに映っていた。
悠真は空を見上げる。
白影は今夜も静かにそこにある。
敵ではなく。
味方でもなく。
ただ、この世界と共に在り続ける存在として。
「また明日。」
誰へ向けた言葉でもなかった。
それでも、その一言は静かな夜風に乗り、この町の隅々まで優しく溶けていった。
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