第448話「受け継がれる日常」
食卓には湯気の立つ味噌汁と焼き魚、炊きたての白いご飯が並んでいた。
誰かが畑で育てた野菜。
誰かが手入れを続けた井戸の水。
誰かが守り抜いたこの家。
一つひとつが、当たり前のようでいて、多くの人の積み重ねの上に成り立っていた。
「いただきます。」
神城家のみんなの声が重なる。
その静かな一言だけで、この家がまだ生きていることを感じられた。
「今日は北側の柵を直そうと思うの。」
美月が箸を置きながら言う。
「昨日の雨で少し傾いてたから。」
「じゃあ俺も手伝うよ。」
悠真が自然に答える。
「ぼくも!」
ぴーちゃんが元気よく手を挙げる。
「ぴーちゃんは釘を運ぶ係ね。」
「まかせて!」
そのやり取りを見ていた恒一は、小さく笑みを浮かべた。
誰も英雄ではない。
誰も世界を支配したわけでもない。
それでも、この食卓には確かな強さがあった。
食事を終えると、それぞれが自分の役目へ向かう。
畑へ向かう者。
診療所へ向かう者。
見回りへ向かう者。
子どもたちは笑いながら走り回り、遠くでは金槌の音が静かに響き始めた。
悠真は庭先で立ち止まり、一度だけ空を見上げる。
白影は今日も変わらず空にあった。
何も終わってはいない。
世界病も、この世界も、明日にはまた違う表情を見せるかもしれない。
だからこそ、人は今日を積み重ねる。
悠真は工具箱を肩に担ぎ、美月たちの待つ北側の柵へ歩き出した。
その背中を朝日が静かに照らしていた。
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