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第444話「九州の防波堤」
深夜。
九州管区、暗雲が立ち込める海岸線。
海面に浮かぶ白影は、硬化を超えた完全静止の影響を受け、ガラス細工のように微動だにせず海に固定されていた。
指揮官は、東京本部から届いた「全軍退避、および群馬への介入一時凍結」の通信記録を、静かに引き裂いた。
彼らの焦燥の結末を、最初から予期していたかのような乾いた視線が、暗い水平線へと向けられる。
「東京の連中も、ようやく自分の小ささに気づいたようだな」
指揮官は、隣の副官に言った。
「世界病を力ずくでコントロールできるなどという傲慢が、あの青い壁に通用するはずがない」
九州の分派は、東京からの再三の脅迫を跳ね除け、ただこの防波堤を維持し続けてきた。
その頑迷なまでの現状維持の姿勢が、結果として世界断面の完全ロックを背後から支える土台となっていた。
「地上の小競り合いは、これで終わりか」
副官が聞く。
「いや、始まりに過ぎん」
指揮官は窓を閉めた。
「システムがロックされたということは、世界はこれ以上の進行を拒否したということだ。ここから先は、誰が最後まで『人間』のままでいられるかの泥仕合だぞ」
それぞれの地方が、それぞれの思想のまま、壊れゆく世界の一片を静かに繋ぎ止めていた。




