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第433話「台湾の選択」
早朝。
台湾管区、霧深き山岳地帯の陣地。
ユナは、湿った泥の上に腰掛け、古い自動小銃のボルトを引いていた。
カチャン、と硬い金属音が周囲の静寂に響く。
東京の軍勢が群馬への侵攻を開始したという報せは、彼女の陣地にも冷たい緊張をもたらしていた。
世界が勝手に動く。
その歪みが、進行順の遅いこの南国の地を、じわじわと圧迫し始めている。
「ユナ、私たちはどうするの?」
偵察員が、遠くの隔離装置の基部を見つめながら聞いた。
「動かないわ」
ユナは銃を膝の上に置いた。
「東京の本部が勝てば、世界は加速して、ここの侵食段階が一気に進む。神城悠真が持ちこたえれば、この静けさは続く。私たちの選択肢は、最初から一つしかない」
彼女の勢力は、物語の中盤以降を担う。
ここで世界を破壊させるわけにはいかないのだ。
英雄化も支配も拒否した群馬の青年の「維持」の思想を、彼女もまた、自らの場所を守ることで支持しようとしていた。
「防衛線の出力を最大に保って」
ユナが霧の向こうに視線を向けた。
「大人の戦争に、私たちの未来を巻き込ませない。ただ、自分の日常を維持するのよ」
朝の光が霧を赤く染め、巨大な装置の輪郭をうっすらと浮き上がらせていった。




