第428話「断面の硬化」
夕方。
観測班の部屋。
プリンターから吐き出される世界断面のグラフに、新しい変化が現れていた。
「小波の振動が、完全に停止しました」
担当者が画面を見つめたまま、驚きの声を上げた。
「上昇でも下降でもありません。数値が、これまでの一時的な基準値よりさらに低い位置で、完全に一本の『硬い直線』に固定されています」
世界断面の連動ルールに基づく、一定周期の標準的な動きを超えた現象。
深部が悠真の入力を受け入れたことで、システム全体が一時的な「硬化状態」に入ったことを示していた。
白峰蓮が地下から戻り、泥のついた上着を脱ぎながら言った。
「想定通りだ。隔離装置が負荷を均等に分散し、外圧に対して最大の防御姿勢をとっている」
「東京や九州の数値も、同じ直線になっていますね」
「ああ」
蓮は自分のファイルをめくった。
「彼らはこの硬化を、群馬が完全に世界を掌握した証拠だと見なすだろう。そして、恐怖のあまりに直接介入を急ぐはずだ。世界が勝手に動くことに耐えられない凡俗たちの、典型的な反応だ」
解決を急がず、段階的な過程を重視する。
その生活維持の思想を持たない者たちにとって、この静寂は最大の脅威でしかなかった。
蓮はペンを取り、新しい直線の上に最新の状況を静かに書き加えた。




