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第418話「九州の海岸線」
深夜。
九州管区、激しい波が打ち寄せる沿岸部。
海面から突き出た隔離装置の基部は、潮水に洗われながらも動かずにいた。
指揮官は、防波堤の上に立ち、東京から送られてきた「群馬介入への協力要請」の書類を破り捨てた。
破片が、黒い海へと吸い込まれていく。
「本家への義理を欠くわけにはいかん」
指揮官は、隣の副官に言った。
「東京の連中は、強敵を消費すれば世界が救われると思っている。だが、俺たちは知っているはずだ。海から来る影をどれだけ斬っても、波が枯れることはないということを」
九州勢力は、常に独自の防衛線を維持してきた。
それは拡大のためではなく、ただこの島を世界断面の崩壊から守るための泥臭い抵抗だった。
「本家から指示は?」
副官が聞く。
「『ただそこにいろ』だ」
指揮官は笑った。
乾いた、しかし確かな信頼の籠もった笑いだった。
「恒一翁らしい。何もしないことが、今一番、あの装置に負荷をかけない方法だと分かっているんだ」
暗い水平線の向こうで、白影の輪郭が月光を浴びて静止していた。
誰かが英雄になる必要はない。
ただ、それぞれの地方が、それぞれの場所で持ちこたえる。
その生活維持の思想だけが、海風の中に厳然と存在していた。




