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第405話「美月の沈黙」
夜。
避難区画の広場。
焚き火の炎が、人々の顔を赤く照らしていた。
美月は、空になった大きな鍋を布で拭いていた。
今日の配給も、大きな混乱なく終わった。
世界が静止しているおかげで、人々の心には薄い安堵が広がっている。
「美月さん、悠真さんたちは今日も地下ですか?」
一人の母親が、子供を抱きかかえながら聞いた。
「ええ」
美月は手を止めずに答えた。
「でも、心配いりませんよ。あの人は、いつも通り帰ってきますから」
「世界は、本当にこのまま平気なのかしら」
美月は答えなかった。
平気か、と聞かれれば、平気ではない。
世界病は治っておらず、白影は今日も空に浮かんでいる。
だが、美月はその恐怖を言葉にして広げるようなことはしなかった。
沈黙を怖がらない。
それが彼女の、この過酷な世界での在り方だった。
「明日も、温かいスープを作りますね」
美月は静かに微笑んだ。
大きな演説も、世界を救う約束もない。
ただ、明日もこの場所で人が生きるという事実を、彼女は自分の沈黙の中にそっと繋ぎ止めていた。
焚き火の爆ぜる音が、夜の空気に静かに消えていった。




