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第403話「地上の監査」
夕方。
拠点の監査室。
黒崎恒一は、机の上に並んだ各班の報告書を、一枚ずつ確認していた。
食料の配給量、防衛線の弾薬消費、そして避難民の健康状態。
五十話ごとの監査ルールに基づき、拠点のすべての動きが、この一室に集約されていた。
劇的な勝利がないからこそ、この管理の正確さが拠点の生命線となる。
「恒一翁、自衛隊からの定時連絡です」
補佐が無線機の受話器を差し出す。
恒一はそれを受け取らず、書類から目を離さなかった。
「内容を言え」
「東京の動きに変化あり、とのことです。神城勢力の本部が、群馬管区のデータ開示を公的に要求してきました。拒否すれば、物資の流通を止めると」
「止めさせておけ」
恒一の声は低く、揺るがなかった。
「あいつらは世界を救うという大義名分を欲しがっているだけだ。だが、この拠点にあるのは、ただの維持だ。分け合える利権など最初から無い」
老人はペンを置き、窓の外の日常を見た。
補修班が壁を叩く音が、規則正しく響いている。
「悠真たちが地下で支えている間、俺たちは地上を支える」
恒一の言葉には、英雄としての傲慢さは一切なかった。
最後まで人間側にとどまる。
その乾いた決意だけが、書類の上に重く残されていた。




