第402話「浸食の記憶」
昼。
青い光の中。
悠真の脳裏に、いくつもの景色が直接流れ込んできた。
それは異世界の光景ではなかった。
見覚えのある古い街並み、人々の叫び声、絶望に満ちた誰かの瞳。
数百年、あるいは数万年の間、この地上で人類が積み重ねてきた「恐怖」そのものの残像だった。
浸食災害の正体。
それは生物の侵略ではなく、世界が抱えきれなくなった感情の沈殿物。
世界病という現象の底にあるものを、悠真は今、自分の皮膚を通じて理解していた。
「これが、魔王の見てきたものか」
悠真は歯を食いしばった。
管理者である魔王たちは、この圧倒的な絶望の質量を、それぞれの方法で堰き止めてきた。
グラディオスが強敵を連続消費し、世界を強制的に統制しようとするのも、この崩壊の重さに耐えかねた結果なのだろう。
方法が違うだけで、全員が世界を守ろうとしていた。
「悠真、引きずられないで」
玲奈の声が、遠くから聞こえた。
彼女もまた、この記憶の洪水を隣で感じ取っていた。
しかし、昨日までの限界を超えた経験が、彼女の意識を冷徹に保たせていた。
全部を受け入れる必要はない。
ただ、この装置が維持されているという事実だけを、正確に観測する。
悠真は深く息を吐き、壁を押し返した。
絶望は消えない。
だが、それを押し留めるための枠組みは、まだここにある。




