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第395話「台湾の霧」
早朝。
台湾管区、山間部の監視所。
濃い霧が、古い鉄塔の周囲を完全に包み込んでいた。
ユナは、湿った空気の中で冷え切った手を擦り合わせていた。
目の前にある巨大な隔離装置の基部は、霧の向こうで微かに明滅している。
「東京の本部が、群馬への介入を決定したようです」
偵察員が、暗号通信の受信記録を持ってきた。
ユナはそれを一瞥し、ため息をついた。
「あそこの人たちは、いつもタイミングを間違えるわね」
彼女の勢力は、世界の進行順において中盤の重要な位置を占める。
群馬、東京、九州。
その三つの勢力のバランスが崩れれば、次に侵食の段階が進むのはこの台湾だった。
世界は勝手に動く。
誰かが英雄化を望めば、その歪みは必ず別の場所に現れる。
「私たちは動かないわ」
ユナは双眼鏡をケースに収めた。
「神城悠真が王にならない限り、私たちは彼の『維持』を信じる。それが、この地域を守る一番確実な方法だから」
霧がさらに深くなり、装置の光を隠していった。
南国の朝は、不穏な静けさを孕んだまま、ゆっくりと明けていく。




