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第390話「美月の計算」
夕方。
拠点の倉庫裏。
美月は古いノートを開き、鉛筆で数字を計算していた。
小麦粉の残量、保存食の期限、そして避難民の人数。
影が動かないということは、避難民が増えないということでもある。
それは配給の計画を立てる上で、これ以上ない好条件だった。
「美月、何してるの?」
玲奈が通りかかり、横からのぞき込んだ。
「次の三か月分の計画を見直してたの」
美月は鉛筆を耳に挟んだ。
「今までは一週間先のことしか考えられなかったから、不思議な感じ」
「世界が止まってるから?」
「ええ」
美月は遠くの補修班の背中を見た。
「悠真たちが地下で頑張ってくれたから、私たちはこうして『未来』の計算ができる。それがすごく、ありがたいなって」
玲奈は静かに頷いた。
彼女には、美月の計算する数字の向こうにある、世界の冷たい膜が感じられていた。
それは決して、楽観できるものではない。
「でも、無理はしないでね」
玲奈が美月の手をそっと握った。
「分かってる」
美月はノートを閉じた。
大演説も英雄の称賛もない。
だが、この地味な計算の積み重ねこそが、生活を維持する人々の本質だった。




