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第387話「均衡の翌朝」
朝。
神城家の台所。
古い換気扇が、低い音を立てて回っていた。
悠真は一人、パイプ椅子に腰掛けて白湯を飲んでいた。
喉を通る温かさが、昨日までの地下の冷気と混ざり合う。
体の中の感覚は、まだあの青い壁の脈動をうっすらと記憶していた。
「悠真、早いな」
恒一が起きてきて、タオルで顔を拭いながら言った。
「あまり眠れなかった」
悠真はカップを置いた。
「深部が静かすぎるからか」
「ああ」
悠真は窓の外を見た。
「動いている時より、止まっている時の方が、世界の重さを感じる」
恒一は何も言わず、古いラジオのスイッチを入れた。
流れてきたのは、いつものノイズ混じりの地方ニュースだった。
東京の市場の価格、九州の物流の遅れ、そして北海道の天候。
世界病による侵食が始まってから、ニュースの内容は驚くほど変わらない。
悲劇にも慣れ、静止にも慣れる。
人々はただ、その枠組みの中で今日を生きる準備をしていた。
英雄がいない世界だからこそ、この退屈な朝の風景が、何よりも重い意味を持っている。
「朝飯にするか」
恒一が冷蔵庫を開けた。
日常を維持するための最初の仕事が、静かに始まった。




