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第385話「静かな圧のなかで」
昼。
神城家の古い居間。
悠真は一人、畳の上に座って古い地図を広げていた。
群馬、東京、九州、北海道、台湾、ロシア。
世界の進行順が、そのまま侵食の段階と重なっている。
それぞれの場所にある隔離装置が、人類の絶望を吸い上げて耐えている。
「悠真」
ぴーちゃんが縁側から入ってきて、悠真の膝の上に頭を乗せた。
「疲れたか?」
悠真がその小さな頭を撫でる。
「ううん」
ぴーちゃんは目を閉じた。
「世界が、がんばってるから。ぴーちゃんも、がんばる」
言葉にできない静かな圧迫感が、この古い家の中にも満ちていた。
大演説もなければ、英雄としての祭り上げられることもない。
ただ、次の降下に向けて、自分の内側にある人間としての輪郭を保ち続けること。
「明日、また降りる」
悠真が呟いた。
「うん」
ぴーちゃんが短く答える。
壁の古い時計が、カチ、カチと規則的な音を刻んでいた。
世界は救われない。だが、この古い家の中で流れる時間は、確かにまだ彼らのものだった。
日常を維持するための静かな決意が、地図の上に重く落ちていた。




