383/451
第383話「九州の黒崎勢」
早朝。
九州管区、沿岸の拠点。
黒崎勢力の分派が、海からの侵食を観測していた。
波打ち際に浮かぶ白影は、北海道のそれとは違い、水の動きに合わせて緩やかに形を変えていた。
しかし、その絶対的な面積が二日間変わっていない事実は共通していた。
「群馬の本家から連絡は?」
指揮官が通信兵に尋ねる。
「恒一翁からは『現状維持を徹底せよ』とのみ」
通信兵が暗号文を差し出す。
指揮官はそれを一瞥して、火の中に投げ入れた。
「相変わらず、具体的な指示を出さない老人だ。だが、それが一番難しい」
九州勢力は、常に防衛線の拡大を主張してきた。
しかし、本家からの制動によって、かろうじて暴走を免れている。
王を作らないという神城家の鉄則が、ここでもかろうじて機能していた。
「海壁の補強を進めろ」
指揮官が命令する。
「影が動かないうちに、やれることをやっておく。世界がどう転んでも、俺たちのやることは変わらん」
夜明けの海原に、青白い光が静かに反射していた。
それぞれの地方が、それぞれの事情を抱えながら、世界という一枚の布を必死に繋ぎ止めていた。




