381/451
第381話「白峰の記録・追記」
深夜。
研究室。
白峰蓮は、新しい記録紙の束を古い革のファイルに綴じ込んでいた。
インクの匂いが部屋に充満している。
第375話からここまでの世界各地の反応。
すべてが彼の正確な筆致で、グラフと数字によって整理されていた。
「断面の連動性に乱れなし」
蓮は呟きながら、ペンのインクを補充した。
彼が書くのは、誰かのためではない。
未来の人間が、同じ過ちを繰り返さないための判断材料。
それだけが、この三か月間彼を突き動かしてきた唯一の動機だった。
「蓮、まだやってるのか」
蓮斗が通りがかりにドアを叩いた。
「もう終わる」
蓮は視線をノートから外さずに答えた。
「現在の安定期は、隔離装置の許容量の上限で発生している。これを維持するためには、次の接触での正確なデータが不可欠だ」
「無理はするなよ」
「無理ではない。これは必要な手順だ」
蓮斗が去った後、蓮は最後の文字を書き終えた。
客観的な事実だけが並ぶページ。
そこには人間の感情を挟む余地はない。
ただ、世界が壊れないように見守る側の記録が、また一頁、確かに積み上げられた。




