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第378話「黒崎の柱」
夕方。
拠点の中庭。
黒崎恒一は、補強された支柱の根元を杖で叩いていた。
古いコンクリートには、いくつもの細かいひび割れが入っている。
それを職人たちが、新しい樹脂で丁寧に埋めていた。
劇的な変化はない。ただ、崩壊を遅らせるための地味な作業が続いていた。
「悠真」
恒一が背後に立つ孫を振り返らずに呼んだ。
「ここにいる」
悠真が歩み寄る。
「東京の連中は、この静止を利用して次の利権を考えているだろう」
老人の声は低く、確かだった。
「だが、お前は惑わされるな。この拠点の柱は、お前が人間側にとどまり続けることだ」
「分かってる」
悠真は空を見上げた。
「俺は征服者にはならない。王にもならない」
「そうだ」
恒一がようやく悠真を見た。
「世界を維持するというのは、英雄になることより遥かに泥臭い。誰も褒めてはくれんし、終わりもない。だが、誰かがやらねば、砂のように崩れる」
職人たちが次の柱へと移動していく。
大きな演説も、英雄としての凱旋もない。
ただ、明日もこの場所で人が生きるための土台を、二人は静かに見つめ合っていた。




