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第377話「日常の底流」
昼。
拠点の配給所。
大きな鍋から、白い湯気が立ち上っていた。
美月は子どもたちの古い器に、温かいスープを順番に注いでいた。
鐘が鳴らない二日間。それはこの避難区画にとって、奇跡のような平穏だった。
子どもたちの顔からも、少しだけ強張りが消えているように見えた。
「ねえ、美月お姉ちゃん」
一人の男の子がスープをすすりながら言った。
「外の白い影、もう大きくならないの?」
美月はしゃがみ込み、男の子の目を見た。
「今はね、お休みしてるみたいだよ」
「ずっとお休み?」
「それは分からないけれど」
美月は静かに微笑んだ。
「だから、今食べられるものを、しっかり食べておこうね」
嘘はつかない。それが美月のやり方だった。
世界がこのまま元通りになることはない。侵食は消えず、魔王もそこにいる。
それでも、この一杯のスープの温かさは本物であり、それを分かち合う時間は今ここにある。
遠くで、補修班が木材を運ぶ掛け声が聞こえた。
世界が壊れないように、誰かがどこかで支えている。
悠真たちが地下で何をしたのか、美月は詳細を知らない。
だが、その結果として守られたこの小さな日常の底で、人々は確かに息をしていた。




