第376話「自衛隊の視点」
昼。
駐屯地の一室。
無線機から流れる雑音の中に、地方政府の動向が混ざっていた。
自衛隊の連絡官は、送られてきた世界断面のグラフを指でなぞった。
群馬を起点とした数値の安定。それが全国の観測所に波及している事実は、彼らの戦術思想にはないものだった。
「敵の作戦行動が停止した、と判断すべきか」
若い隊員が尋ねる。
連絡官は首を横に振った。
「侵食は生物ではない。作戦もなければ、意志もない。これはただの現象だ」
彼らにとって、ダンジョンは排除すべき脅威だった。
だが、どれだけ火力を投入しても、侵食の段階は進み、地域は削られていった。
今起きている静止は、彼らの防衛線が機能した結果ではなかった。知らないところで、知らない原理によって、世界が勝手に止まっている。
「地方政府は群馬との接触を強化しているようです」
隊員が報告書を置く。
「神城家か」
連絡官が呟いた。
「彼らは王にはならないと言いながら、結果として世界の中心にいる。それが何を意味するのか、彼ら自身も分かっていないのかもしれん」
窓の外では、雪に埋もれた装甲車が並んでいた。
守るべき国家の形がどれだけ変容しようとも、彼らはただ、与えられた任務を遂行するしかない。その乾いた自覚だけが、部屋を満たしていた。




