第372話「東京からの報せ」
昼。
通信班の部屋。
古い無線機が、ノイズ混じりの音を吐き出していた。
「――こちら、東京。神城勢力本部」
スピーカーから聞こえる声は、どこか遠く、冷たい響きを持っていた。群馬の拠点とは違い、東京は常に政治と権力の中心地として機能し続けている。侵食の恐怖の中でも、彼らの関心は勢力の拡大と、他地域への影響力維持に向いていた。
悠真がマイクを取る。
「群馬、神城だ」
「現在のそちらの状況を確認したい。観測データによると、昨夜、群馬管区の深部反応に一時的な異常値が記録されている。白影の拡大も停止したようだが、何があった」
東京の問いは、常に結果を求める。
悠真は、机の上に置かれた蓮の記録を見つめた。恒一の言葉が頭をよぎる。事実はまだ伏せるべきだ。
「地下の調査を行った」
悠真は感情を交えずに答えた。
「白影の停止は一時的な均衡状態によるものと推測される。現在、再拡大の兆候はない。監視を継続する」
「……そうか。東京でも同様の静止現象が観測されている。九州でもだ。世界規模での地殻変動の可能性がある。引き続き、異常があればすぐに報告せよ」
通信が切れた。ザザ、というノイズだけが残る。
世界は勝手に動いている。東京の人間たちも、自分たちの物差しでこの現象を解釈し、次の手を考えている。世界が壊れないように見守る者と、それを動かそうとする者。その距離は、地下の深部よりも遠く感じられた。




