第371話「恒一の判断」
朝。
黒崎恒一の執務室。
古い机の上に、白峰蓮がまとめたばかりの記録紙が置かれていた。
恒一は眼鏡をかけ、一枚ずつ丁寧に目を通していく。地下の発光、玲奈の言葉、そして無線機が壁に残された事実。部屋の中には、書類をめくる乾いた音だけが響いていた。悠真は窓際に立ち、静かに祖父の様子を見ていた。
「これが深部の正体か」
恒一が全ての紙を読み終え、眼鏡を外した。
「現象であり、管理システムである。戦う相手ではない、と悠真は言うのだな」
「そうだ」
悠真が振り返る。
「倒しても侵食は止まらない。むしろ、世界を維持している枠組みが壊れる。俺たちがすべきなのは、あの装置が壊れないように見守ることだ」
恒一はしばらく黙っていた。
これまでの人生で、数多くの災害と戦ってきた老人だった。敵を見つけ、それを排除することで、地域を守ってきた。だが、今回の事態はそのどれとも違っていた。排除すべき敵がいない。ただ、崩れゆく世界を両手で支え続けるような、果てしなき維持。
「分かった」
恒一は記録紙を一つにまとめた。
「この事実は、まだ他には伏せておく。東京や九州の勢力が知れば、別の利用方法を考えるだろうからな。まずは群馬のこの拠点で、次の出方を見る。それでいいな、悠真」
「ああ」
悠真が頷く。拠点の柱である老人の判断は、いつもと同じく、冷徹で、そして確かだった。




