第370話「地上の朝光」
早朝。
拠点地上部。
四人が地上に戻ってきたとき、東の空が白み始めていた。
冷たい朝の空気が、地下の湿った臭いを洗い流していく。悠真は大きく息を吸い込んだ。肩の上のぴーちゃんが、眠そうに小さな目をしばたたかせている。長い夜が終わった。だが、世界が変わったわけではない。
「見ろよ」
蓮斗が北の空を指さした。
白影があった。輪郭は昨日よりもはっきりとしており、そこに厳然と存在し続けている。だが、拡大はしていない。周囲を圧迫するような不穏な揺らぎも消えていた。ただの背景のように、そこに静止している。影の歩みも、完全に止まったままだった。
美月が避難区画の入り口から走ってきた。
悠真たちの姿を見つけると、少しだけ歩みを緩め、それからいつもの静かな足取りで近づいてきた。
「おかえり」
短い言葉。
「うん」
悠真が答える。
「変わりはなかった?」
美月が空の白影を見上げる。
「鐘は鳴らなかったよ。みんな、自分の仕事をしてた」
世界を救ったわけではない。侵食災害が消え去ったわけでもない。今日も人々は、白影の下で配給を受け取り、壁の補修をする。だが、その日常が明日も続くということ。そのための基礎を、昨夜の地下で繋ぎ止めることができた。悠真は美月の横を通り、自分の拠点へと歩き出した。




