第369話「維持の合意」
深夜。
地下。
青い光の中。
悠真は無線機を壁に押し当て続けた。
玲奈の言葉を聞きながら、悠真は自分のやるべきことを理解していた。ここにあるのは、倒すべき敵ではない。支配すべき力でもない。ただ、人類が生き延びるために作り出し、そして忘れてしまった巨大な仕組みの残骸だった。
「俺たちはここにいる」
悠真は静かに口に出した。
壁に向かって。
「壊さない。逃げもしない。ただ、ここで一緒に持ちこたえる」
その言葉が届いた瞬間、無線機を通じて冷たい感触が悠真の手のひらに戻ってきた。壁の激しい明滅が、すうっと収まっていく。元の、穏やかで深い青。だが、その底にあった「限界に近い疲弊」の気配が、ほんの少しだけ和らいでいるように見えた。完全な回復ではない。だが、崩壊への速度が確実に遅くなった。そんな変化だった。
白峰蓮が記録紙を見つめる。
「深部反応、安定。前回の静止状態よりも、さらに基礎値が低下している。これは、負荷が軽減されたということです」
蓮の声には興奮はなかった。ただ、事実に対する正確な評価だけがあった。
「終わったのか」
蓮斗が懐中電灯の光を壁に戻しながら言う。
悠真は手を離した。古い無線機は、壁の表面にぴったりと張り付いたまま、青い光を微かに反射していた。深部は、人間の意思の一部をその身に受け入れた。




