第366話「断面の広がり」
深夜。
地上、観測班の部屋。
数字が動き始めたのは、悠真が地下で接触を試みたのと同時刻だった。
「深部反応、再上昇」
担当者が声を殺して言った。
画面のグラフが、水平な直線から急激に上向きの曲線を描き始めていた。しかし、それは破壊的な数値への跳ね上がりではなかった。まるで休止していた心臓が、再び動き出したかのような、力強い脈動を伴った上昇だった。
「北の白影に変化あり」
もう一人の担当者がモニターを指さす。
動かなかった白影の輪郭が、ゆっくりと外側へ広がり始めていた。だが、面積の拡大ではない。密度が変わっていた。透き通っていた影の中心部が、より濃い灰色へと変色していく。それは地域が侵食される兆候ではなく、世界の一部がそこに固定されるような、不思議な安定感を持っていた。
「世界断面のデータ、出力します」
プリンターが規則的な音を立てて紙を吐き出し始める。
そこには、群馬の拠点だけでなく、東京、そして遠く離れた九州の観測所の数値も同時に記録されていた。連動している。どこか一箇所が動けば、すべての隔離装置がそれに応じる。それが世界の真実だった。
「神城さんが触れたんだな」
担当者が呟く。
彼らには地下の様子は見えない。だが、紙の上に刻まれる数字が、悠真たちの生存と、その行動の意味を正確に伝えていた。誰もそれを止めようとはしなかった。彼らの仕事は、この変化を正確に記録し、維持することだけだった。




