第365話「青い壁の前で」
深夜。
深部区域。
青く光る壁が、再び四人の前に現れた。
その光量は二日前と大きく変わっていなかった。だが、壁の表面を流れる光のリズムは、明らかに以前より規則正しくなっていた。暴走が止まり、一定の負荷で耐えている状態。それが今の深部だった。悠真は一歩、壁に近づく。ポケットの中の古い無線機に手が触れた。金属の冷たさが指先から伝わってくる。
「準備はいい?」
玲奈が静かに聞いた。
彼女の視線は壁の最も深く、青い部分に注がれている。
悠真が頷く。
「始める」
一歩、前に出る。
ぴーちゃんが悠真の肩で、じっと壁を見つめていた。その小さな体が、わずかに緊張で硬くなっているのが分かった。怖がっているのではない。これから起きることを、一瞬も見逃さないように構えている。
白峰蓮はすでに記録紙を台板に固定し、ペンを構えていた。蓮斗は周囲の暗闇に目を配り、何かあってもすぐに動ける姿勢をとる。
それぞれの役割が、この地下の静寂の中で噛み合っていく。
悠真は右手を伸ばした。手のひらが壁に触れる直前、ポケットから出した古い無線機を壁の表面にそっと近づける。機械の基盤と、世界の隔離装置。全く異なる二つの存在が、地下数百メートルの暗闇の中で、今まさに接触しようとしていた。光が、悠真の指先を青く染めていく。




