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ダンジョンのある世界で生きる  作者: 竜太郎


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363/451

第363話「伝える準備」

夜。

拠点地下への入り口。


悠真は古い鉄の扉の前に立っていた。


次に持っていくものを決める必要があった。深部へ伝えるための、言葉ではない何か。それを悠真は、この三日間考え続けてきた。ただ触れるだけでは足りない。それは先の観測結果が証明している。静止はしているが、解決はしていない。深部は今も、その巨大な質量を維持するために、目に見えないところで磨耗し続けている。放置すれば、いずれまた動き出す。


「これ」

ぴーちゃんが悠真の足元を指さした。


小さな、古い無線機だった。

かつて神城家が拠点内で使っていた、初期の通信端末。今はもう動かない。だが、悠真はそれを拾い上げてポケットに入れた。機械として機能させる必要はなかった。ただ、こちら側が「通信を試みようとしている」という意思の形。それを深部に提示するための、一つの道具として選んだ。象徴としての物。それがあれば、ただの手のひら以上の意味を、壁に伝えることができるかもしれない。


白峰蓮が後ろから歩いてくる。

「記録紙の予備は増やした」

短く言う。

「次がどう動くか分からない。変化の瞬間を逃すわけにはいかないから」

悠真が頷く。


二人の間にそれ以上の会話はなかった。何をすべきかは、すでに数字と事実が示している。世界は救われない。だが、維持する手段はある。そのための準備を、彼らは静かに進めていた。地上の風が、鉄の扉を小さく叩いた。

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