第362話「均衡者の次の手」
夜。
拠点の一室。
悠真は一人で考えていた。
深部に触れた。呼吸が少し楽になった。白影の拡大が止まった。影も止まった。全部が繋がっている。均衡者として地下へ降りたことに、意味があったのは間違いない。だが、一度触れただけでは足りない。それは最初から分かっていた。深部が疲れているなら、一度の接触では変わらない。続けることが必要だ。しかし、ただ触れ続けるだけでいいのかも分からない。次は何を持っていくか。何を伝えるか。蒼月に「均衡者がここにいると伝える」と答えた。その言葉の意味を、悠真自身がまだ完全に掴めていなかった。維持する、という言葉が、まだ体に馴染んでいない。もう少し深く考える必要があった。
悠真は白峰蓮の記録を読む。地下の発光。温度。振動のリズム。数字が並んでいる。答えはまだ見えない。だが問いは明確になってきた。深部は疲れている。そこにこちらの存在を届ける。ただ物理的に触れるのではなく、意思として届ける。それが次の一手だと、今は思っていた。
ぴーちゃんが来る。
「また行く?」
小さく聞く。
「また行く」
悠真が答える。
「次は、伝える」
ぴーちゃんが頷く。
「深部に、こっちの意思を伝える。ただ触れるんじゃなくて。こっちがここにいるということを、言葉じゃない何かで届ける」
「できる」
短く言う。
「あっちも、聞こうとしてた」
夜の拠点は静かだった。外壁の向こうで白影は今夜も浮かんでいる。深部は疲れたままそこにある。均衡者の仕事は、始まったばかりだった。




