第360話「白影、静止」
昼。
観測班の部屋。
記録紙が並んでいた。
今日の数字が昨日と並べられている。担当者が確認する。北の白影。東の白影。南西の白影。三か所全部の数字を見る。昨日と比較する。また見る。見間違いではないか確認する。数字は変わらなかった。広がっていない。三日連続で拡大していたものが、今日は動いていない。深部反応の上昇も止まっていた。昨日と同じ値だった。この三か月で、数字が変わらないことがこれほど重く感じられる日が来るとは思っていなかった。変化なし、という言葉が今日は初めて良い知らせに見えた。
「初めてだ」
担当者が短く言う。
もう一人が数字を確認する。
「昨日と同じ範囲だ」
頷く。
「深部反応も止まってる」
「記録はする」
静かな声で答える。
白峰蓮が来る。昨夜の地下記録を持っている。
「悠真さんが壁に触れた時刻と、白影の動きが止まった時刻を確認した。一致してる」
担当者が言う。
「偶然かもしれないが」
「偶然かもしれない。でも記録する価値はある。次に同じことが起きれば、偶然じゃなくなる」
蓮が答える。
記録紙に追記される。地下での接触時刻と、白影の静止時刻。同じ夜に起きた二つのことが、並んで書かれた。世界は繋がっている。その可能性が、今日初めて証拠に変わろうとしていた。担当者はもう一度数字を見る。動いていない。この静止が明日も続けば、何かが変わる。そう感じながら、記録紙を閉じた。




