第354話「帰還の道」
深夜から早朝。
地下のトンネル。
来た道を戻る。
懐中電灯を持って、レールの上を歩く。蓮斗が先頭。悠真が続く。玲奈が続く。蓮が最後。誰も話さない。話す必要がなかった。足音だけが続く。鉄のレールと石の床が響かせる規則的な音だけが、長いトンネルを満たしていた。
四人それぞれの中で、見たものと感じたことがまだ動いていた。言葉にする前の段階で、静かに整理されていた。地上では影が動いたという鐘が鳴ったことも、白影が静止し始めたことも、まだ届いていない。地下にいた間、世界は勝手に動いていた。誰かが気づかなくても、世界は動く。誰かが理解していなくても、事態は進む。それがこの侵食後の世界の在り方だった。知らない間に変わっていて、戻ってきたら違う世界になっている。そういうことが今まで何度もあった。今夜もまた、そうかもしれなかった。
蓮斗が時々立ち止まる。
道を確認する。
崩落がないか。
足元が安全か。
確かめてから前に進む。
誰かが確かめなければ、誰かが転ぶ。その単純な仕事を、蓮斗は黙ってやり続けていた。目立たない。報告もしない。だが蓮斗がいなければこのチームの動きは確実に鈍くなる。それが蓮斗の在り方だった。守る力を持ちながら、守ることの意味を大仰に語らない。ただやる。悠真はその背中を見ながら歩いていた。自分にはない何かが、そこにある気がしていた。
ぴーちゃんが肩で聞く。
「また行く?」
悠真が頷く。
「行く。次は、違うものを持っていく」
前方に扉の光が見えてくる。夜明け前の薄い明るさだった。




