第353話「玲奈が聞いたもの」
深夜。
地下。
青い光の中。
玲奈はまだ目を閉じていた。
深部から来るものを、今は絞って感じている。洪水にならないように、必要なものだけを丁寧に拾う。昨日の限界を超えた経験が、今日の絞り方を教えてくれていた。全部感じようとするのではなく、一つだけ選んで深く聞く。それが今の玲奈のやり方だった。はじめてこの力を持ったとき、何も制御できなかった。感じたくないものまで流れ込んできて、眠れない夜が続いた。今は違う。扉を自分で開け閉めできるようになってきた。少しずつ、自分のペースで世界を受け取れるようになっていた。
悠真が壁に触れた後、何かが変わった。変化は小さかった。だが確実にあった。
玲奈が小さく言う。
「呼吸が少し楽になった」
悠真が聞く。
「深部が?」
玲奈が頷く。
「さっきまでは苦しそうだった。今は少し違う。重さが変わった気がする」
蓮が記録する。
玲奈は言葉を続ける。
「叫んでない。怒ってもいない」
静かな声。
「ただ在り続けてる。在り続けることに、疲れてる何かがそこにある」
誰も返事をしない。その言葉が地下の空気の中に広がっていく。疲れている深部。三か月間、白影を出しながら、影を動かしながら、それでも在り続けてきたもの。地上で勢力の思想がぶつかり合い、人間が争いを続けていた間、深部はただ静かに限界へ向かっていた。世界はそれを知らないまま、今日も動いていた。玲奈はそれを、言葉にならない重さとして感じ続けていた。
「人間みたいだな」
蓮斗がぽつりと言う。
誰も否定しなかった。玲奈が小さく頷く。その沈黙が、答えだった。




