第351話「壁が答えた」
深夜。
地下。
青く光る壁の前。
悠真が手を離した後も、しばらく誰も動かなかった。四人全員が、息を詰めるようにしてその変化を見守っていた。
光は静かになっていた。だが消えてはいない。触れる前より少しだけ安定して見えた。揺れていた光が、今は一定に保たれている。まるで呼吸が整ったような落ち着き方だった。壁の色は変わらず青く、温かく、地上では見たことのない種類の光だった。侵食の色とは違う。ダンジョン由来のものとも違う気がした。もっと深いところから来ている、古い光に見えた。
ぴーちゃんが悠真の肩でそっと言う。
「怒ってない」
小さい声。
「怒ってないし、怖くもない」
悠真が聞く。
「何を感じた?」
ぴーちゃんは少し考えてから答える。
「疲れてる」
短く。
「ずっと頑張ってる。でも限界に近い」
悠真は壁に向き直る。疲れている深部。それが白影を出し、影を動かし、深部反応を上昇させている。怒りからではない。限界から来ているものだった。攻撃したいわけでも、侵略したいわけでもない。ただ在り続けることに疲弊している何かが、そこにある。その事実が、悠真には予想以上に重くのしかかってきた。灰王ゼル=ヴァルドも最後はそういう存在だった。戦うために生まれたのではなく、管理するために生まれた。支配したいのではなく、ただ続けてきただけだった。今ここにあるものも、同じかもしれない。
白峰蓮が記録紙に書き続けている。玲奈は目を閉じたまま何かを感じ取ろうとしている。蓮斗は周囲に目を配りながら立っていた。誰かが守る。誰かが感じる。誰かが記録する。この四人の在り方が、気がつけば自然にできていた。
悠真はもう一度壁に軽く触れる。挨拶のように。
光が一度だけ、柔らかく揺れた。




