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第347話「影が一歩動いた」
夜前。
外壁上。
見張り班が北を見ていた。影はいつもいる。遠い場所に。動かない。三か月間、ずっとそうだった。
だが。
今日は違った。
一歩、動いた。
本当にわずかな動きだった。見張りの一人が最初に気づく。
「動いた」
短く言う。
もう一人が双眼鏡を向ける。長い沈黙。
「動いてる」
確認する。
ゆっくりと、しかし確実に、南へ向かっている。距離はまだ遠い。すぐに問題になる距離ではない。だが、三か月間動かなかったものが動き始めた。その事実だけで、外壁の上の空気が変わった。
見張り班長が鐘を手に取る。
一回鳴らす。
カァン。
低い音。拠点に知らせる合図。地上の人々が顔を上げる。補修班が手を止める。配給班が動きを遅くする。
何があったかは分からない。だが、鐘一回の意味は知っていた。
警戒。
地下では悠真たちがまだレールを歩いている。この情報は、まだ彼らに届かない。
夜前の空に、白影は二か所から静かに浮かんでいた。




