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第268話「生活の音」
昼前。
避難区画。
風が吹いていた。
洗濯物が揺れる。
布が鳴る。
久しぶりだった。
子どもたちは少し楽しそうだった。
風を追う。
笑う。
走る。
その姿だけ見れば。
普通だった。
本当に。
普通の生活だった。
美月はその様子を見ていた。
少しだけ笑う。
その時。
小さな男の子が転ぶ。
雪。
毛布。
水桶。
全部落とす。
慌てる。
泣きそうになる。
美月が近づく。
しゃがむ。
「大丈夫」
静かな声。
一緒に拾う。
男の子が小さく頭を下げる。
「ごめんなさい」
美月は首を振る。
「次気を付ければいいよ」
優しい声。
男の子が少し笑う。
その笑顔を見て。
美月も少し笑う。
遠く。
外壁の向こう。
恐ろしい何かが近づいている。
でも。
ここにはまだ生活がある。
それを守るために。
皆がいた。
その時。
風が強く吹く。
洗濯物が揺れる。
子どもたちが笑う。
その音だけが。
少しだけ北海道を温かくしていた。
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