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第267話「動いたもの」
朝。
蒼月残存区域。
昨夜の話で持ち切りだった。
影が動いた。
一歩。
ただそれだけ。
だが。
皆にとっては十分だった。
今までは遠かった。
今までは曖昧だった。
でも。
昨夜。
確かに動いた。
その事実だけで。
空気が変わっていた。
配給区画。
補修区画。
診療区画。
どこでも同じ。
人々は声を落として話す。
「本当に動いたのか」
「見た」
「俺も見た」
短い会話。
だが。
誰も否定しない。
その時。
悠真が外壁へ上がる。
風が吹いている。
冷たい。
雪煙が流れる。
北を見る。
黒い空。
遠い脈動。
まだ続いている。
以前より近い。
以前より重い。
そんな感覚だけがあった。
白峰 蓮が記録紙を開く。
「深部反応上昇継続」
短く。
「過去最大更新」
沈黙。
数字ではない。
皆。
感覚で分かっていた。
近づいている。
玲奈が目を閉じる。
小さく震える。
「……起きてる」
短い声。
昨日より。
さらに確信に近かった。
その言葉に。
誰も返事ができなかった。
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