268/451
第266話「最初の一歩」
夜。
蒼月残存区域。
風が吹いていた。
外壁布が鳴る。
雪煙が流れる。
音がある。
それでも。
静かだった。
皆。
北を見ていた。
その時。
カァン。
鐘。
一回。
長い音。
全員が止まる。
北。
遠い雪原。
黒い影。
立っている。
巨大な影。
誰も喋らない。
そして。
動く。
ほんの少し。
一歩。
前へ。
それだけ。
それだけだった。
だが。
十分だった。
誰かが息を呑む。
誰かが後ずさる。
玲奈が目を見開く。
「……来た」
小さい声。
震えていた。
今まで。
遠くにいた。
見ているだけだった。
でも。
違う。
動いた。
向かってきた。
その事実だけで。
蒼月残存区域の空気は変わった。
風が吹く。
鐘の余韻が消える。
そして。
誰もが理解していた。
長かった静かな圧が。
ついに形を持ち始めたことを。
(次話へ)




