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第264話「静かな食卓」
昼前。
配給区画。
白い灯り。
温かいスープ。
湯気。
いつも通り。
そう見えた。
だが。
人々は静かだった。
会話が少ない。
皆。
考えていた。
昨夜の影を。
老人がスプーンを置く。
掠れた声。
「見たか?」
ぽつり。
近くの男が頷く。
「見た」
短く。
それだけ。
それ以上。
言葉が続かない。
大きかった。
あり得ないほど。
大きかった。
その事実だけで十分だった。
その時。
ぴーちゃんが薬袋を持って歩く。
眠れない人。
疲れた人。
熱のある人。
増えている。
だが。
今日は違う。
恐怖。
それが増えていた。
理由の分からない不安ではない。
理由のある恐怖だった。
女性が小さく言う。
「本当にいたんだね」
掠れた声。
ぴーちゃんは答えない。
答えられない。
自分も見たから。
その時。
小さい子どもが聞く。
「何見てるの?」
大人たちが止まる。
誰も答えない。
そして。
誰も答えられなかった。
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