第146話 「先行群」
群馬外縁。
風が止まっていた。
静かすぎる。
その異常を、全員が感じている。
「……見えた」
見張り役が呟く。
遠く。
黒い揺れ。
最初は小さかった。
だが。
近づくにつれて分かる。
多い。
数が。
「……群れかよ」
蓮斗が低く言う。
壁の上から見ていた。
未分類個体とは違う。
もっと小さい。
だが。
その分、数が異常だった。
地面を埋めるように動いている。
その時。
白峰 蓮が双眼鏡を下ろす。
「……先行個体」
短く。
「本隊じゃない」
その一言。
重い。
つまり。
あれで前座。
その時。
03が言う。
「侵食型の前触れだ」
冷静な声。
「地域反応を見るために流してる」
実験。
観測。
その言葉に、全員の空気が変わる。
人を。
地域を。
試している。
その時。
ぴーちゃんが震えた声で言う。
「……いっぱい来る」
不安が隠せない。
だが。
逃げない。
その時。
悠真が言う。
「配置確認」
短く。
その瞬間。
全員が動く。
壁上。
通路。
誘導線。
準備していた位置につく。
以前とは違う。
慌てていない。
積み上げてきた。
その実感がある。
その時。
避難民側でも動きが始まる。
子どもを下げる。
食料をまとめる。
明かりを減らす。
戦えない人たちも。
ちゃんと動いている。
内側が崩れていない。
それだけで違った。
その時。
黒崎 恒一が言う。
「落ち着け」
低い声。
「恐怖は広がる」
「だが、崩れるな」
短く。
その言葉が拠点を支える。
その時。
群れが止まる。
距離。
まだ遠い。
だが。
動かない。
「……なんだ?」
蓮斗が眉を寄せる。
その時。
白峰 蓮が小さく言う。
「……見てる」
全員が止まる。
その瞬間。
群れの奥。
何かが動いた。
大きい。
だが。
完全には見えない。
揺れている。
「っ……!」
玲奈が息を呑む。
嫌な感情が一気に広がる。
怒り。
空腹。
侵食。
ぐちゃぐちゃの感情。
その時。
群れが一斉に動く。
地面が揺れる。
「来るぞ!!」
悠真が叫ぶ。
その瞬間。
壁側が動く。
通路封鎖。
誘導開始。
先頭の群れが狭い通路へ流される。
「……今!」
蓮斗が叩き込む。
一撃。
先頭が崩れる。
だが。
止まらない。
次。
また次。
押し寄せる。
「数多すぎる!」
誰かが叫ぶ。
その通りだった。
倒しても。
減っている感じがしない。
その時。
03が前へ出る。
「流れを切る」
短く。
その瞬間。
空間が沈む。
群れの一部が強制的にズレる。
進行が乱れる。
「……中央寄った!」
白峰 蓮が即座に反応する。
その瞬間。
壁角度変更。
群れ同士をぶつける。
黒い影が互いに潰れ合う。
「……効いてる!」
蓮斗が叫ぶ。
だが。
その時。
後方の群れが変化する。
止まった。
いや。
“並び始めた”。
「……まずい」
03が初めて声を変える。
その一言で空気が凍る。
群れが整列する。
統制。
つまり。
“上位個体が近い”。
その時。
遠く。
黒い巨大影が少しだけ見えた。
北海道で見たものに近い。
だが。
まだ小さい。
未完成。
それでも。
圧が違う。
その瞬間。
群れが再び動く。
今度は一直線。
壁を無視して突っ込んでくる。
「っ……!」
防衛線が揺れる。
木材が軋む。
今までと違う。
明確な“突破意思”。
その時。
悠真が叫ぶ。
「止めるぞ!!」
その声で。
全員が前を見る。
群馬。
ここはまだ。
人の場所だ。
だから。
簡単には渡さない。
黒い群れが迫る。
防衛線が揺れる。
そして。
群馬最初の本格防衛戦が始まった。
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